外国会社がウェブサイトで製品の宣伝をしている場合、日本の特許権者は日本の裁判所に訴えを提起できるのか

 外国の会社が、ウェブサイトで製品の宣伝をしているとします。日本の(潜在的な)顧客は、そのウェブサイトを閲覧し、購入を申し込むことができます。その製品が、日本の特許権の技術的範囲に属する場合、特許権者は、どの国の裁判所に訴えを提起したらよいのでしょうか。
 このような事例について、地裁と高裁とで判断の分かれた事例があります。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100928163316.pdf

 日本では、国際裁判管轄についての法案は作成されていますが、まだ国会で可決されていいません。現時点では、マレーシア航空事件判決(最判昭和56年10月16日判決 民集35巻7号1224頁)にしたがって、管轄の有無が判断されます。マレーシア航空事件判決の提示する判断枠組みは、
(1)日本の民事訴訟法の規定する国内裁判籍のいずれかが日本国内にあるときは、原則として、日本に管轄がある。
(2)当事者の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には、日本の管轄を否定する。
というものです。
 国内裁判籍((1))は、本来、国際裁判管轄とは関係が無いのですが、国内裁判籍が生ずる程度に事案と我が国との関連があれば、原則として国際裁判管轄を認め、例外的な事情 は(2)で考慮しています。
 しかし、(1)の国内裁判籍は、とても緩く認められてしまいます。不法行為であれば、不法行為地(加害行為の地も結果の発生地も含みます。)での裁判籍が生じ、被害者の所在地には、損害賠償債務の義務履行地として、裁判籍が生じます。もともと、国内裁判籍は、より適切な地で当事者が裁判を受けられるよう、緩く作ってあります。それを国際裁判管轄に転用しようとすると、日本に広く管轄が生じます。それでは困るので、(2)の特段の事情を考慮するのですが、特段の事情の比重が大きくなるほど、予測可能性が減り、裁判所の裁量が大きくなってしまいます(ジュリストNo.1386の早川論文を参照)。

 この事案では、原告(控訴人)は、有名な日本の部品メーカーであり、被告(被控訴人)は、韓国の著名なS社でした。
S社は、英語のウェブサイトに問題の部品を掲載していました。問い合わせ先には、世界各国が列記され、Japanも含まれており、海外ネットワークのページには、日本の住所も記載されていました。さらには、日本語表記のウェブサイトもあり、そのページから問題の部品を注文することもできました。海外事業所として、日本の販売法人も掲載されていました。
大阪地裁では、裁判管轄が否定されました。しかし、知財高裁は、
上記の事情によれば、被告が日本で訴訟を提起されることは予想の範囲内であること、
S社が著名な大企業であること、日本法人である原告が日本の特許権に基づいて日本での譲渡の申出の差止めを求めていること
などを考慮し、管轄を肯定しました。

 被告は、日本で原告になっていることもあるようですので、日本で訴訟を追行する能力は十分にあるように思います。知財高裁の判断の方が妥当であるように思います。