パブリシティ権の性質


 ピンクレディ事件の最高裁判決が出ています(最判平成24年2月2日)。
パブリシティ権の性質については、人格権的構成と財産権的構成とがあり、どちらに依拠するかによって、権利の譲渡や相続について違いが生じます(これまでの下級審判決の詳細な解説として、菊地判事の判タ1346号及び1347号の論文があります。)。

 いわゆるパブリシティ権は、有名人の名前や写真を商品に付したり雑誌に掲載すると、売上が増加します。つまり、有名人の名前や写真は、自己の情報をコントロールする(つまり、秘密にしておく)権利の対象というよりも、露出することによって得る経済的な利益の源泉です。この立場からは、財産的構成が適切です。
 しかし、財産的構成では、差止請求権が認められません。ギャロップレーサー事件上告審判決(最判平成16年2月13日)が、人ではなく物(具体的には、競走馬)の無体物としての利用に関してではありますが、法令の根拠なしに排他的な使用権を認めることを否定しました。そのため、パブリシティ権についても、財産的構成をとる限り、排他的な使用権についての法令の根拠は見当たらないため、差止請求権の根拠が欠けます。
なお、何らかの法的利益が存在すると、不法行為による金銭的な賠償は認められますが(民709条)、日本の法制度では、不法行為差止請求権には結びつきません。

その一方、人格権(憲13条)によれば、差止請求権が認められます。そして、氏名及び肖像から生じる権利という点では、パブリシティ権も、人格権由来の権利ということができます。最近の下級審判決では、パブリシティ権を人格権に由来する権利と位置付けるものが多数を占めていました。

今回の最高裁判決は、以下のように判示し、パブリシティ権が人格権に由来する権利であることを認めました。そして、パブリシティ権は、プライバシー権とは異なり、氏名又は肖像等の商業的価値に基づくものであることも認めています。したがって、損害賠償の場面では、精神的損害の慰謝料ではなく、商業的価値に基づく損害を請求することができます。

「人の氏名,肖像等(以下,併せて「肖像等」という。)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される([判例の引用を省略])。そして,肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。」

 それに加え、有名人の氏名及び肖像の顧客吸引力を排他的に使用する権利(つまり、パブリシティ権)は、表現の自由との緊張関係にあることも指摘し、パブリシティ権侵害の成立する場面に枠をはめています。

「肖像等を無断で使用する行為は,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客
吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。」

 今回の最高裁判決は、人格権的構成の立場を明確にしています。したがって、パブリシティ権は、各個人(氏名及び肖像の保有者)に帰属するものであり、第三者に譲渡することは困難です(発生済みの損害賠償請求権を第三者に譲渡したり、第三者に対して氏名及び肖像の許諾権限を授与したりすることは可能です。)。さらに、その個人が死亡する際、パブリシティ権が相続されることはないと解されます。もっとも、氏名又は肖像が、第三者にとって不正競争防止法の商品等表示となっている場合には、パブリシティ権とは別の利益として保護されると考えられます。