サポート要件と実施可能要件(2)

組み合わせ薬について、実施可能要件及びサポート要件が争われた事案の審決取り消し訴訟の判決が公開されています。この事案は、記載要件と進歩性との関係という点でも、興味深いものです
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120417155305.pdf

[実施可能要件とサポート要件]
 実施可能要件とポート要件については、公開の代償という観点から一体的にとらえる立場と、両者は別の条文による別の要件として分離的にとらえる立場があります。以前、このブログでは、前者に近い立場で説明したことがあります。
http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20100930/1285858294#tb
現在でも、クレームと明細書(公開した内容)とのバランスを取るという目的において、両者は一体的にとらえるべきものと考えています。
もっとも、一体説か分離説かという問題は、目的は同一であるという点を強調するか、座標軸が異なるという点を強調するかという説明の違いでもあります。したがって、これら2つの立場が先鋭的に対立するわけではありません。

 上記の判決では、実施可能要件とサポート要件とも、発明を公開する代償として独占的な権利が付与されるという点が強調されています。
 しかし、詳細には、両者の説明には違いもあります。実施可能要件では、公開の代償という趣旨が直接に反映されているのに対し、サポート要件については、発明の開示に加え、クレームが技術的範囲を明らかにするという役割を有するということも付加されています。
 もっとも、この違いは、実施可能要件とサポート要件の対象の違いから生じるものです。つまり、実施可能要件は、発明な詳細な説明に求められる要件であるのに対し、サポート要件は、クレームに求められる要件です。そして、クレームは、技術的範囲を明らかにするものです。発明の公開の代償という趣旨を、発明の詳細な説明から検討するか、クレームから検討するかという違いによって、上記の違いが生じます。
 したがって、実施可能要件とサポート要件の趣旨は究極的には合致し、両者を一体的にとらえることができると考えています。

<実施可能要件について>
「特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。」


<サポート要件について>
「特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。法36条6項1号の規定する明細書のサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。」