継続的契約の終了


 販売代理店契約やフランチャイズ契約など、取引が長期間にわたることが予想される契約(いわゆる継続的契約)では、(i)契約の終期がそもそも定められていなかったり、(ii)契約期間は定められているものの、自動更新条項(いずれの当事者も更新拒絶をしない限り、一定期間ごとに契約が更新されていく条項)が設けられているという場合があります。「当事者は継続的契約を終了するにあたってどのような事由が必要であるのか」という論点については、様々な研究の蓄積があります(例えば、中田裕康先生や川越先生)。

 (i)終期のない契約については、賃貸借契約や雇用契約とのアナロジーにより、信頼関係の破壊や止むを得ない事情が必要であるといわれます。
 その一方、(ii)更新拒絶が契約の文言上明記されている場合には、それよりも低い程度(例えば、事業計画の変更などの合理的な理由がある場合)でも足りるという説明もなされています。

 もっとも、実際の事案の当てはめでは、両者の規範の違いによって結論が生じるというよりも、解除される側の当事者を保護すべきか否かという観点が影響している例も多いように思います。多くの例では、経済的に立場の強い当事者が解除権を行使し、立場の弱い当事者が契約の継続又は損害賠償を主張しています。このような事例では、結論として、弱者を保護しようという傾向が生じることは、避け難いのかもしれません。

 法的には、解除権の行使に制約を設ける理由として、相手方による契約継続への期待は法的な保護に値すると説明されます。経済的には、関係特殊投資が損なわれることの防止といえます。つまり、当事者は、契約が継続することを期待して、その契約に特化した投資を行っているため、意に反して契約が解約されると、その投資が無に帰してしまいます。


 東京地判平成24年1月30日(判時2149号74頁)では、継続的契約の解消が問題となりました。この紛争は、著名な持ち帰り弁当チェーンのマスターフランチャイザー(Y)とサブフランチャイザー(X)とによって争われたものです。フランチャイズ契約の更新を拒絶したのはYであり、それに対し、Xが、損害賠償を請求しました。
 この持ち帰り弁当事業は、全国を東日本、関西、九州の3つの地区に分けて展開されていました。そして、Yは、マスターフランチャイザーであるとともに関西地区で直接に事業を行い、Xは、東日本及び九州地区で事業を行っていました。そして、分裂後の店舗数では、Xの方が多くなっています。したがって、この事案において、更新拒絶したYが弱者だったとまではいえません。

 判決は、Xの事業への投資に関し、
「原告にとって,本件フランチャイズチェーンにおける持ち帰り弁当販売事業は,長期間にわたって,相当の資本を継続的に投下してきた主力事業であったと認めるのが相当である。」

とし、さらに、Yによる更新拒絶については、

「そうすると,原告において,本件契約は,契約期間が満了しても,更新されて継続すると期待する合理的な理由があったというべきであって,このような期待は法的に保護されるべきものであるから,被告は,やむを得ない事由がない限り,更新を拒絶することは許されなかったと認められるところ,本件更新拒絶にやむを得ない事由が認められないことは,後記(3)において説示するとおりである。」

と判示しています。

 つまり、枠組みとしては、止むを得ない事由を採用していますが、結論としては、そのような事由の存在を否定しています。

 さらに、損害賠償額については、契約の終了に伴う新規チェーンの立ち上げに要した費用の全額を認めるのではなく、1/4のみを認めています。その理由として、契約が永久に継続するとまでは期待できなかったことを挙げています。もっとも、なぜ1/4であるのかについて、具体的な説明は見当たりません。

「しかし,原告において,本件契約が期間満了後も更新されて継続すると期待する合理的な理由があったとはいえ,永久に継続するとまで期待することはできないのであって,契約継続への期待には自ずから限界があるというべきであり,将来,本件契約が適法に終了した場合に,原告が新たに事業を立ち上げるため,その時点において支出することとなるものは,原告が負担すべきであることを考慮すると,被告の債務不履行によって生じた損害と認められるのは,上記支出の一部にとどまるというべきである。そして,上記1(1)の認定事実を前提として判断すると,被告の債務不履行によって生じたということのできる損害は,上記支出の4分の1に相当する5億0373万2742円であると認めるのが相当である。」