組み合わせ薬のクレームの技術的範囲

[組み合わせ薬]
 既存の薬Aと別の既存の薬Bとの組み合わせ(薬)というクレームの特許が成立することがあります。実際に、AとBとを一つの錠剤又はカプセル剤に入れた合剤が発売されることもあります。例えば、カデュエットは、ノルバスク及びリピトールとしてそれぞれ単独で販売されていた薬を組み合わせた合剤です。このような合剤には、「それぞれの薬を処方すれば足りる、薬局の有限な棚を占拠するのは問題である」という意見もありますが、コンプライアンス(服薬遵守)上、有益であるという利点もあります。


[組み合わせ薬の直接侵害及び間接侵害]
 このような組み合わせ(薬)のクレームの技術的範囲について、これまでにも、議論がなされてきました。もちろん、合剤が技術的範囲に属することに争いはありません。問題は、医師が、A及びBという独立の薬の処方箋を出し、薬剤師がA及びBを処方し、患者がA及びBを服用するという場面です。
 このような場合、「組み合わせ(薬)」という物の発明がどの段階で実施されたのか、つまり、業として生産又は使用等がなされたのか、という問題があります。つまり、直接侵害が生じるのか否かという点が問題です。直接侵害を否定するにあたっては、
(i)そもそも、実施行為がない(組み合わせ(薬)という物が生産されなかった)
という理由と、
(ii) 実施行為は存在するが、業でないか又は違法性がないなどの理由により免責される
という理由とがあり得ます。
 (i)の場合には、間接侵害も生じません。
 その一方、(ii)では、間接侵害が生じることもあります。今日では、直接侵害と間接侵害との関係について、完全な独立説が支持されているわけではなく、直接行為が許容される根拠に応じて間接侵害の成否を判断するという見解が一般的です。したがって、直接侵害が否定されたからといって、間接侵害が否定されるとは限りません。

[大阪地判平成24年9月27日]
 大阪地判平成24年9月27日(平成23年(ワ)第7576号及び第7578号)での争点の一つは、上記の技術的範囲の解釈でした(注:もっとも、クレームは、「組み合わせ薬」ではなく、「組み合わせ『てなる』医薬」であり、判決では、この「てなる」も構成要件非充足の根拠の一つに使われています。)。
 この判決では、上記の(i)の見解により、直接侵害及び間接侵害ともに否定しました。

「「物の生産」とは,特許範囲に属する技術的範囲に属する物を新たに作り出す行為を意味し,具体的には,「発明の構成要件を充足しない物」を素材として「発明の構成要件のすべてを充足する物」を新たに作り出す行為をいうものと解すべきである。一方,「物の生産」というために,加工,修理,組立て等の行為態様に限定はないものの,供給を受けた物を素材として,これに何らかの手を加えることが必要であり,素材の本来の用途に従って使用するにすぎない行為は「物の生産」に含まれないものと解される。」

「なお,「組み合せる。」とは,一般に,「2つ以上のものを取り合わせてひとまとまりにする。」ことをいい,「なる」とは,「無かったものが新たに形ができて現れる。」「別の物・状態にかわる。」ことをいうものと解される。したがって,「組み合わせてなる」「医薬」とは,一般に,「2つ以上の有効成分を取り合わせて,ひとまとまりにすることにより新しく作られた医薬品」をいうものと解釈することができる。」

「被告ら各製品が,それ自体として完成された医薬品であり,これに何らかの手が加えられることは全く予定されておらず,他の医薬品と併用されるか否かはともかく,糖尿病又は糖尿病性合併症の予防・治療用医薬としての用途に従って,そのまま使用(処方,服用)されるものであることについては,当事者間で争いがない。
したがって,被告ら各製品を用いて,「物の生産」がされることはない。換言すれば,被告ら各製品は,単に「使用」(処方,服用)されるものにすぎず,「物の生産に用いられるもの」には当たらない。」

 さらに、医師がA及びBの併用療法ついてAとBとを処方する行為については、

「本件各特許発明が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品とを併用すること(併用療法)を技術的範囲とするものであれば,医療行為の内容それ自体を特許の対象とするものというほかなく,法29条1項柱書及び69条3項により,本来,特許を受けることができないものを技術的範囲とするものというとになる。
したがって,医師が「ピオグリタゾンまたはその薬理学的に許容しうる塩」と本件併用医薬品の併用療法について処方する行為が,本件各特許発明における「物の生産」に当たるとはいえない。」

 と判断しています。


 判決の判断も、相応の根拠はあります。
 しかし、この判決によると、組み合わせ(薬)の技術的範囲は、合剤に限られてしまいます。製薬会社が、AとBとの組み合わせで顕著な効果を見出し、素晴らしい技術的成果を挙げ、A又はBの用法として併用療法の薬事承認を得たとしても、医師がAとBとを単独の薬として処方することにより、対価を回収する機会が失われてしまうことになります。

 薬に限らず、AとBとの組み合わせ(例えば、AとBとを使用直前に混合する接着剤キット)というクレームはあり得ます。この判決によると、そのようなキットは「生産」され得ないということになってしまいます。