クレームの一部のみがサポート要件に適合すればよいのか

 サポート要件適合性は、クレームの一部ではなく全体が、当業者にとって発明の課題を解決できると認識できるものであるか否かという規範で判断されるべきものです。
サポート要件が問われる典型的な場面の一つが、実施例を過度に一般化・抽象化したクレームです。クレームのうち実施例の部分のみが発明の課題を解決していても、過度に抽象化したクレームがサポート要件に適合しているとはいえません。

 知財高判平成24年6月6日判時2166号121頁は、上記の観点化すると、疑問が残ります。
 この事案のクレームは、減塩醤油に関します。クレームでは、食塩濃度、カリウム濃度、窒素濃度及び(窒素/カリウム)重量比の各々について、上限及び下限が規定されていました。減塩醤油は、食塩濃度を減らした醤油です。もっとも、食塩濃度を減らすと、塩味が減ります。そこで、塩味を通常の醤油程度まで引き上げるため、塩味をもたらすカリウムが添加されます。しかし、カリウムを添加すると苦味が増します。苦味を低減するため、窒素含有成分が添加されています。

原告(無効審判の請求人)の主張したサポート要件違反の無効理由は、食塩濃度の下限付近に実施例がなく、発明の課題が解決できると認識できないというものでした。
判決は、食塩濃度が下限値付近であり、カリウム(食塩と同様に塩味に寄与します。)濃度が下限値付近である場合、塩味が不足することは認めています。しかし、食塩濃度が下限値付近でも、カリウム濃度を上限値近くにすることにより、塩味を強く感じさせることができることを当業者は理解すると判示し、結論として、クレームの記載はサポート要件に適合すると判断しました。
しかし、上記の判断は、いわばクレームを裁判所が訂正し、
・(食塩濃度+カリウム濃度)≧一定値
という要件を付加したに等しいものです。
 確かに、発明の課題を苦味の低減に限定して認定するのであれば、塩味をカリウム濃度で調整することは、課題とは直接の関係がないといえるかもしれません。しかし、塩味が足りないということは、減塩醤油での問題点であることは明らかであり、苦味の低減の先決問題です。