明示的一部請求と残部についての裁判上の催告としての消滅時効の中断

 最高裁が、いわゆる明示的一部請求の場合に、残部についても消滅時効が中断するのかという論点について、判決を出しています(最判平成25年6月6日判時2190号22頁(民集登載予定))(従前の議論について、
http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20130616/1371376252)。
 
 この最判には、興味深い判示事項が2つあります。
 1点目は、残部の消滅時効に関し、特段の事情の無い限り(つまり、原則として)、訴訟係属中の催告の係属(裁判上の催告)を認めています。
 2点目は、裁判外の催告と裁判上の催告の重畳適用を認めていません。その結果、まず、債権者が債務者に内容証明を送り(裁判外の催告)、次いで、一部であることを明示して訴えを提起しても(残部についての裁判上の催告)、最初の裁判外の催告から6月以内に裁判上の請求等をしなければ(民153条参照)、残部についての時効の中断の効力が生じません。催告を繰り返して時効の進行を止めることは、裁判上の催告であっても、原則としてできません。

[残部の消滅時効
 可分債権(例えば、金銭請求権)の一部のみの判決を求める旨を明示して訴えを提起する場合、残部の消滅時効の帰趨について、
(1) 残部には何の影響もなく、消滅時効が進行する。
(2) 残部についても、消滅時効は中断する。
(3) 消滅時効の中断には至らないが、裁判上の催告となる(つまり、訴訟係属中に、催告が係属する)。
という説があります。
 最高裁は、(2)を否定しています(最判昭和34年2月20日民集13巻2号209頁)。
もっとも、一部請求の事案ではありませんが、最高裁は、裁判上の請求(典型的には、訴えの提起)に至らなくても、権利の存在が訴訟物として確定されたのと実質上同視しうるような関係にある場合には、裁判上の請求に準ずるものとして時効の中断を認めています(最大判昭和43年11月13日民集22巻12号2510頁及び昭和44年11月27日民集23巻11号2251頁)。
さらに、これも一部請求の事案ではありませんが、最高裁は、訴訟係属中に催告が係属すると判断した事案があります(最大判昭和38年10月30日民集17巻9号1252頁)。
そこで、残部請求についても、裁判上の請求に準じるものとして(1)の立場を採ることも可能であり、裁判上の催告として(3)の立場を採ることも可能です。しかし、最高裁は、これまで、その態度を明らかにしてきませんでした。


最判平成25年6月6日の立場]
最判平成25年6月6日は、(3)裁判上の催告説に立つことを明らかにしました。
さらに、注目すべき点は、
「明示的一部請求の訴えが提起された場合,債権者が将来にわたって残部をおよそ請求しない旨の意思を明らかにしているなど,残部につき権利行使の意思が継続的に表示されているとはいえない特段の事情のない限り,当該訴えの提
起は,残部について,裁判上の催告として消滅時効の中断の効力を生ずるというべきであ(る)」
と判示していることです。
 例外的な事情の無い限り、明示的な一部請求では、裁判上の催告が認められます。

[催告の繰り返し]
 裁判上の催告が認められたことは、債権者にとっては有利です。しかし、その出番は、実際には少ないように思います。その理由は、最高裁は、催告の繰り返しによる消滅時効の中断を認めていないためです。

消滅時効期間が経過した後,その経過前にした催告から6箇月以内に再び催告をしても,第1の催告から6箇月以内に民法153条所定の措置を講じなかった以上は,第1の催告から6箇月を経過することにより,消滅時効が完成するというべきである。この理は,第2の催告が明示的一部請求の訴えの提起による裁判上の催告であっても異なるものではない。」

 実際の紛争では、いきなり訴えを提起するのではなく、裁判外の請求が行われていることの方が一般的であるように思います。しかし、債権者が、まず、裁判外の請求(最判の「第1の催告」)を行い、その後に明示的な一部請求(最判の「第2の催告」)をしても、裁判外の請求から6月を経過すると、残部についても消滅時効が完成してしまいます。
 裁判外の請求から6月で判決が出るのであれば、直ちに残部についても訴えを適すれば良いのですが、実際には、そうでないことの方が多いように思います。したがって、最判平成25年6月6日の恩恵を受ける場面は、限られているように思います。