審査基準の改定案(進歩性)

 
 産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会のWGで、審査基準の改定について議論がされています。本年1月の議題の一つは、進歩性でした。主要な変更候補は、以下のとおりです。

(1) 技術分野の関連性の重要度を落とす。
技術分野の関連性に基づいて拒絶する場合には、他の動機づけとなり得る観点(つまり、作用・機能、課題、引例中の示唆)も併せて考慮しなければならない。

(2) 主引用発明の適格性
クレームされた発明と主引用発明とが技術分野又は解決課題の点で大きく異なる場合には、慎重な動機づけの検討を要する。

(3) 後知恵の防止
(i)(相違点の判断の際に)当業者が容易に想到し得たように見えてしまう、(ii)(引用発明の認定の際に)本願発明に引きずられて、本願発明に近づけて引用発明を認定してしまうことのないよう、注意喚起をする。

(1)は、塚原先生の技術分野同一論への批判以来、技術分野の関連性に対する逆風が結実したものです。もっとも、相違点の判断は、本来、総合評価によってなされるべきものです。引用発明同士の技術分野がきわめて近い場合には、それ以外の要素を考慮するまでもなく、両者を組み合わせる動機づけがあるという場合もあります。しかし、審査基準としては、技術分野の関連性を主要な観点とする場合には、一律に、丁寧な説明を求めるという方針も、合理的であるように思います。

(2)も、一般論としては異論のないところです。ただ、この方針を徹底すると、組み合わせ型の発明は、大抵、進歩性を有するということになりかねません。つまり、主引用発明Aと副引用発明Bとを組み合わせると本件発明A+Bに至るという場合、主引用発明Aは、副引用発明B又はそれに類似する構成を有していません。したがって、本件発明の課題を限定的に認定すると、本件発明の課題は、主引用発明Aでは解決されていなかったものであり、主引用発明Aの課題とは異なります。課題の認定次第では、「本件発明の課題は主引用発明とは大きく異なっており、主引用発明には他の構成をさらに付加して別の課題を解決する動機づけがない」という論理が一般化されかねません。組み合わせ型については、両者を組み合わせることによって初めて新たな課題解決手段を提供できるのか、という視点も重要であるように思います。

(3)が有効に機能するのは、実際には、(ii)引用発明の認定の場面です。(i)相違点の判断については、スローガンとしてはわかりやすいものの、現実には機能しがたいと思います。