応用美術は著作権で保護されるか

応用美術(例えば、工業製品のデザイン)の著作物性については、これまでにも、
意匠権で保護すべきなのか、著作権法でも保護を許容すべきなのか、
・両者の重複が許されるとして、著作権法で保護される領域(つまり、著作物性が認められる範囲)はどこまでなのか
という論点に関し、様々な議論があります。
http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20120813/1344861285

 これまでのところ、意匠法と著作権法との重なりは認めつつ、その範囲はかなり狭く解されてきています(ただし、形態が、不競法上の商品等表示として保護される余地はあります。)。
もっとも、国際的には、両者の棲み分けを厳格に適用する解釈は、少数派になりつつあります(AIPPIのQ231)。

 この論点に関し、知財高判平成27年4月14日(平成26年(ネ)第10063号)が、従来とはやや異なる規範を述べ、従前の見解(応用美術に対して著作物性のハードルを上げ、高い創作性を要求するというもの)とは決別しています(詳細について、以下に引用)。ただし、著作権の保護の範囲が狭いという点で、著作権による長期間の保護との調整を図っています(つまり、狭い範囲での長期の保護)。

 この判旨が広く受け入れられていくとすると、問題として、意匠登録する意味がどこにあるのか、という点があります。
 意匠権の場合、特許庁の審査を経ているので、引用された意匠との対比から、類似の範囲は予想しやすいという利点はあります。
 しかし、「作成者の個性が発揮される選択の幅が限定される」という点は、意匠も著作物も同じです。相手方が既存のデザインの調査をすることにより、結果として、意匠の類似の範囲も、著作物の翻案の範囲は、狭くなっていくことが予想されます。
 さじ加減は難しいものの、意匠の類似の範囲の方が翻案の範囲よりも広く解釈されるのでなければ、意匠権が必要なのか、という疑問が生じかねません。
 仮に、著作権法では、事実上のデッドコピーしか排除されないとしても、形態の商品等表示に関し、3年経過後も、周知性又は著名性の立証なしにデッドコピーを排除できるという点で、メリットは大きいように思います。


 「著作権法と意匠法とは,趣旨,目的を異にするものであり(著作権法1条,意匠法1条),いずれか一方のみが排他的又は優先的に適用され,他方の適用を不可能又は劣後とするという関係は,明文上認められず,そのように解し得る合理的根拠も見出し難い。
加えて,著作権が,その創作時に発生して,何らの手続等を要しないのに対し(著作権法51条1項),意匠権は,設定の登録により発生し(意匠法20条1項),権利の取得にはより困難を伴うものではあるが,反面,意匠権は,他人が当該意匠に依拠することなく独自に同一又は類似の意匠を実施した場合であっても,その権利侵害を追及し得るという点において,著作権よりも強い保護を与えられているとみることができる。これらの点に鑑みると,一定範囲の物品に限定して両法の重複適用を認めることによって,意匠法の存在意義や意匠登録のインセンティブが一律に失われるといった弊害が生じることも,考え難い。
以上によれば,応用美術につき,意匠法によって保護され得ることを根拠として,著作物としての認定を格別厳格にすべき合理的理由は,見出し難いというべきである。」

 「応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があるので,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。
以上に鑑みると,応用美術につき,他の表現物と同様に,表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性を認めても,一般社会における利用,流通に関し,実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことまでは,考え難い。」