プロダクト・バイ・プロセス(PBP)クレームの明確性要件と相対的な明確性、唯一の証拠方法

 最判平成27年6月5日は、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス(PBP)クレームについて、技術的範囲及び要旨認定ともに、物同一説を採用しました。
もっとも、PBPクレームの場合、原則として、クレームが明確性要件に適合しないと判断しました。その理由は、製造方法による物の特定は不明確であるという点にあります。

「当該製造方法が当該物のどのような構造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその特許発明の技術的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であ(る)」

 しかし、構造又は特性で特定することに不可能・非実際的な事情がある場合には、PBPクレームによる特定を許容しました。つまり、クレームは、明確性要件に適合すると判断しました。

「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情(注:不可能・非実際的事情)がある場合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として特 許発明の技術的範囲を確定しても,第三者の利益を不当に害することがないというべきである。」

 このような判断枠組みには、批判もあります。そもそも、不可能・非実際的事情がある場合とは、およそ構造又は特性による物の特定が不可能である場合であり、クレームの及ぶ範囲は不明確の極限というべきです。しかし、そのような段階にいたると、クレームが明確であるというのでは、倒錯した議論といわざるを得ません。PBPクレームを許容するか否かにあたり、本来は適していないはずの明確性要件を持ち出したため、このような状況が生じています。

 もっとも、クレームの記載方式の相対的な明確性という観点からは、上記の判断枠組みも理解できます。つまり、発明について、(i)構造又は特性での特定と(ii)製造方法による特定との両方ができる場合に、(ii)を選択することは、相対的に不明確な記載であるため、クレームが明確性要件に適合しません。その一方、(ii)しか選択肢がない場合には、比較対象が存在しないため、唯一の発明特定方法として、明確性要件に適合すると解することができます。

 民事訴訟では、当事者がある争点について申し出た唯一の証拠について、裁判所は、特段の事情のないかぎり、それを却下することなく取り調べる必要があります(最判昭和53年3月23日裁判集民事123号283頁)。PBPクレームの許容性も、これに似た状況にあるように思います。他に発明の特定のための選択肢がないのであれば、相対的な明確性というテクニカルな説明をしてでも、PBPを許容せざるを得ません。