延長された特許権の効力範囲

知財高裁平成29年1月20日は、延長された特許権の効力の及ぶ範囲に関し、

  • 「物」についての特許発明の文言どおりの実施と、これと実質同一の範囲での当該特許発明の実施のいずれをも含むものと解すべき、
  • 政令処分で定められた構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても、当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは、医薬品と政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれる、

と判断しました。具体的な類型としては、

(1) 医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において,有効成分ではない「成分」に関して,対象製品が,政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合,

(2) 公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において,対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合で,特許発明の内容に照らして,両者の間で,その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき,

(3) 政令処分で特定された「分量」ないし「用法,用量」に関し,数量的に意味のない程度の差異しかない場合,

(4) 政令処分で特定された「分量」は異なるけれども,「用法,用量」も併せてみれば,同一であると認められる場合

が挙げられています。

 (1) の類型については、延長された特許権の効力の及ぶ範囲は、もう少し広くて良いと思います。周知慣用ではない成分を添加する(例えば、新たな添加剤を開発して添加する)場合には、延長された特許権の効力が及ばないとすると、後発側としては、常時、新たな添加剤をストックしておき、順次添加することにより、延長された特許権の効力範囲から逃れられることになってしまいます。
 先行発明が、有効成分及び効能・効果(用途)の発明である場合には、その発明の重要性と、付加される添加物の役割との比較から、生物学的同等性の範囲(つまり、いわゆるジェネリックの範囲)が実質同一の範囲と解してもよいのではないかと思います。