2013-01-01から1年間の記事一覧

特例法による性別の取扱いの変更の審判を受けた場合の父性及び嫡出性の推定規定の適用の可否 − 最決平成25年12月10日 −

[事案] 抗告人X1は、性同一障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(「特例法」)3条1項の規定により、女性から男性への取扱いの変更の審判を受けました。 抗告人X2(女性です。)は、X1と婚姻し、夫であるX1の同意の下、X1以外の男性の精子…

審決取消訴訟の審理範囲

[メリヤス編機事件] 行政処分の訴訟物は、処分の違法性一般であり、個々の違法事由に限定されるわけではありません。 しかし、特許法の審決取消訴訟では、メリヤス編機事件の最高裁大法廷判決(最大判昭和51年3月10日民集30巻2号79頁)により、…

職権での無効理由通知、解決課題の認定

換気扇フィルター事件の第2次審決取消訴訟が判時2197号119頁に掲載されています。 この事件は、無効審判の2回目の審決取消訴訟です。第1次審決では、特許庁は特許を進歩性欠如により無効としましたが、その審決取消訴訟(第1次審決取消訴訟)では…

新司法試験の選択科目

法曹養成制度改革顧問会議で、新司法試験の選択科目を廃止するか否かが議題に上っています。 それに対し、各科目に関連する団体及び実務家からは、当該科目の重要性を理由の一つとして、反対の意見が出ています。もっとも、今回の議論の争点は、選択科目のリ…

進歩性の判断枠組みにおいて、効果は、要件事実としてどのように位置づけられるか

進歩性の判断枠組みでの相違点の判断のステップは、要件事実的には、総合判断型の規範的要件と解されています(総合判断型の規範的要件の例として、借地借家法28条の正当事由)。総合判断型の規範的要件では、各種の要素が総合評価されます(借地借家法2…

TPPとデータ保護期間(再審査期間)

先週の金曜日の朝刊に、TPPの交渉について、交渉参加国が「新薬の開発データの権利を保護する機関を「8年」で調整している」との報道がありました。 日本の場合、薬事法14条の4の再審査期間が、実質的なデータ保護期間として機能しています。再審査期間…

引用発明の適格性

本願発明の進歩性を判断する際、まず、引用発明を決め、その引用発明から本願発明に至ることが容易であったか否か(つまり、本願発明と当該引用発明との相違点を解消することが容易であったか否か)を検討します。この引用発明は、主引用発明とよばれます。 …

サポート要件適合性の規範(「当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」と「必要かつ合目的的な解釈手法」)

[2つの規範] サポート要件適合性の規範としては、多くの場合、偏光フィルム事件の「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明…

庭園の著作物に対する建築の著作物の条項の適用 (同一性保持権の一般条項としての著作権法20条2項4号)

[建築の著作物の特殊性] 著作権法では、著作物の例示として、建築の著作物が挙がっています(10条1項5号)。 建築の著作物では、第三者にその利用が広く認められるとともに(46条2号;「建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡によ…

自炊代行業者に対する差止め

いわゆる自炊代行業者に対する差止め及び損害賠償請求訴訟の判決が出ています(東京地判平成25年9月30日(平成24年(ワ)第33535号)。まねき及びロクラクの最判から予想されたとおり、判決は、権利者の請求を認容しました。 「枢要な行為」に関…

「裁判所は、サイエンス的発想が弱い」

田原睦夫・元最高裁判事の講演録が、金融法務事情1978号に掲載されています。非常に興味深い内容が多々盛り込まれているのですが、その中には、「そういうのを見ていると(注:最判平24.2.8刑集66巻4号200頁及び最判平23.10.31判時21…

明示的一部請求と残部についての裁判上の催告としての消滅時効の中断

最高裁が、いわゆる明示的一部請求の場合に、残部についても消滅時効が中断するのかという論点について、判決を出しています(最判平成25年6月6日判時2190号22頁(民集登載予定))(従前の議論について、 http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/2013…

TPPに伴う特定の著作物についてのみの著作権の保護期間の延長

報道では、米国は、著作権の保護期間を一律に70年に延長するのではなく、著作物の類型ごとに保護期間を変えるという提案をしているようです。 日本でも、映画の著作物の著作権のみ、別の扱いを受けており、保護期間は、公表から70年です(著作権法54条…

違憲判決の遡及効

嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の1/2とする規定(民法900条4号ただし書き)について、最高裁大法廷が、当該規定が憲法14条1項に反するという違憲決定を出しました。 この規定については、平成7年大法廷決定で合憲とされた後(平成7年大法…

ITCの排除命令に対する拒否権発動

ITC(国際貿易委員会)が、サムスンの申立てを受け、Appleに対して下した排除命令について、大統領が拒否権を発動したというニュースが報道されています。 最近、ITCの申立ては増加傾向にあります。 その背景に、連邦最高裁のeBay事件判決により、特許法に基…

電子出版での出版社の権利

文化審議会の著作権分科会出版関連小委員会では、本年5月13日より、電子出版に関連する出版社の権利について集中的に議論を重ね、7月29日の第6回の会議により、電子出版権の創設の方向が固まったと報道されています。 電子出版における出版社の権利が議論と…

TPPと著作権保護期間の延長

8/1の新聞の朝刊に、「著作権保護延長 TPPで容認論」と題する記事が掲載されています。そのなかで、保護期間を国などにあわせて70年に延長することが検討されていること、文科省幹部の発言として「米農業のように譲れない問題ではない」との容認論が出…

解雇権濫用の法理、整理解雇の4要素及び解雇の金銭解決制度の導入

労働法制の改正に関し、最近では、解雇の基準を明確にすべき、解雇をしやすくすべきという観点からの議論も盛んです。その背景として、 ・正規雇用の解雇が困難であると、労働力の調整が非正規雇用に集中してしまう(雇用の二極化)、 ・法的に根拠のある解…

著作権の保護期間とTPP

TPP交渉の開始にあたり、日本政府は、知財分野の交渉方針を米国と統合し、その一環として、著作権の保護期間を50年から70年に延長する方針を決めたとの報道がなされました。現在のところ、政府は、この報道を否定しています。 文化審議会では、著作権…

一部請求と残部の消滅時効

[一部請求の利用態様] 金銭の支払い請求では、一部の額のみを申し立てることがあります(一部請求)。 一部請求が用いられる典型的な場面は、不法行為の損害賠償請求です。例えば、交通事故の被害者の場合、損害額が最終的にどのような額になるのか、訴え…

職務発明の帰属

「知的財産政策に関する基本方針」(平成25年6月7日付け閣議決定)には、「1 産業競争力強化のためのグローバル知財システムの構築」の中に、職務発明の帰属及び営業秘密保護法制に関し、以下の記載があります。「1 産業競争力強化のためのグローバル…

損害賠償請求に対するFRAND宣言による権利濫用の抗弁

東京地判平成25年2月28日(平成23年(ワ)第38969号)は、一連のスマホ訴訟の一つであり、アップル(X)が、サムスン(Y)に対し、損害賠償債務の不存在の確認を求めた事件です。裁判所は、Yが、問題の特許は標準規格の必須特許であることを理由…

クレームの一部のみがサポート要件に適合すればよいのか

サポート要件適合性は、クレームの一部ではなく全体が、当業者にとって発明の課題を解決できると認識できるものであるか否かという規範で判断されるべきものです。 サポート要件が問われる典型的な場面の一つが、実施例を過度に一般化・抽象化したクレームで…

改変した商品について商標を付したまま販売する行為

原則として、第三者は、他人の登録商標を使用する権限を有していません。しかし、出所表示機能及び品質保証機能を害さない態様での使用行為(例えば、流通経路での転売)は、実質的な違法性を欠くため、商標権侵害の責任を問われることはありません。 その一…

特許を受ける権利を原始的に会社に帰属させると何が解決するのか

日経の報道によると、政府の「知財政策ビジョン」では、従業員のなした職務発明の特許を受ける権利について、従業員ではなく、初めから会社に帰属させるという提案がなされるようです。著作権法では、既に、一定の要件の下、職務著作は被用者に帰属しますが…

特許法102条2項及び著作権法114条2項における損害の発生の要件

知財高判平成25年2月1日の大合議判決は、従前の一般的な説(特許法102条2項では、権利者の実施が要件であるとの説)を覆し、「特許権者が当該特許発明を実施していることは、同項を適用するための要件とはいえない」と判示しました。 具体的な内容は…

付与後レビュー制度

産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会の平成25年2月付け報告書案「強く安定した権利の早期設定及びユーザーの利便性向上に向けて」によると、各種案の中から付与後レビュー制度を導入することが適切とされました。 この「付与後レビュー制度」…

FRAND条項による権利濫用

報道によると、アップルとサムスンのスマホ訴訟(サムスンが原告のもの)において、地裁は、サムスンがFRAND条項にもかかわらずアップルと誠実に交渉しなかったことを理由として、請求を棄却したそうです。 FRANDとは、Fair, Reasonable And Non-Discriminat…

外国判決の執行判決を求める訴えと債務不存在確認訴訟における訴えの利益との関係、民事訴訟法3条の5第2項は特許権の登録に適用されるか

東京地判平成25年2月19日(平成22年(ワ)第28813号は、外国判決の執行判決を求める訴えが係属していることを理由に、当該外国判決の判断対象である権利義務に関する債務不存在確認の訴えは、確認の利益を欠くと判断し、訴えを却下しました。 事…

特許法102条2項と権利者による実施の必要性

本年2月1日の知財高裁大合議判決は、特許法102条2項に関し、「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害…