著作権の保護期間とTPP

 TPP交渉の開始にあたり、日本政府は、知財分野の交渉方針を米国と統合し、その一環として、著作権の保護期間を50年から70年に延長する方針を決めたとの報道がなされました。現在のところ、政府は、この報道を否定しています。

文化審議会では、著作権の保護期間について、延長反対及び延長賛成の双方の間で意見の対立が激しく、結局、保護期間延長の法案提出は見送られました(もっとも、著作権をはじめとする知財の分野での政策決定は、残念ながら、選挙結果に直結するわけではありません。)。上記の報道が正しいとすると、国内の議論で決着を着けられなかった争点を、いわば外圧によって決着を着けることになります。

世界的にそして歴史的にみると、著作権の保護期間は、延長の繰り返しです。近代的な最初の著作権法は、イギリスのアン法です。その際の保護期間は、最初の印刷の時から14年(1回の延長が認められるため、合計で28年)でした。
今日では、ベルヌ条約の下での保護期間は、著作者の生存期間及び著作者の死後50年です(7条(1))。ただし、各加盟国は、それよりも長い保護期間を定めることができます(7条(6))。

もっとも、ベルヌ条約は、保護期間について相互主義を許容しています。つまり、著作者の本国であるA国での保護期間がB国での保護期間が短い場合、B国は、当該著作物について、B国の保護期間(長い保護期間)ではなく、A国での保護期間(短い保護期間)を適用することができます。この点で、ベルヌ条約は、外国の国民について自国の国民とは異なる扱いをすることを許容しています。
したがって、いずれかの国が保護期間を延長すると、他国は、自国の著作物も長い保護期間が適用されるよう、保護期間を延長するインセンティブが働きます。さらに、保護期間の延長の利益は局在しやすい一方、保護期間の維持ないし短縮の利益は広く薄く拡散する傾向にあります。
その結果、保護期間について、常に、延長の圧力が加わります。
なお、TRIPS協定は、WTO加盟国に対し、ベルヌ条約1条ないし21条の遵守を求めています。その結果、WTO加盟国も、ベルヌ条約で定められた保護期間を遵守しなければなりません。