解雇権濫用の法理、整理解雇の4要素及び解雇の金銭解決制度の導入

 労働法制の改正に関し、最近では、解雇の基準を明確にすべき、解雇をしやすくすべきという観点からの議論も盛んです。その背景として、
正規雇用の解雇が困難であると、労働力の調整が非正規雇用に集中してしまう(雇用の二極化)、
・法的に根拠のある解雇が困難であると、かえって陰湿な対応を採らざるを得なくなる、という主張があります。
その一方、
・日本の雇用契約は欧米とは異なっているため、日本では解雇が困難であるという指摘は一概に正しいとはいえない、
・企業規模による違いが大きいため、一律に議論することは困難である
という反論もあります。


解雇ルールの法改正に関する論点に関し、 8/2の朝刊に、菅野名誉教授のインタビューが掲載されています。概要は、

・労働契約法16条(解雇権濫用の法理)の条文自体は当たり前のもの。変更の余地はない。
・整理解雇については、事案に応じた具体的な判断とならざるを得ない。
・限定正社員であるからといって、解雇法制が異なるわけではない。
・行政のあっせんや労働審判では、事実上、解雇の金銭解決が図られている。

というものです。菅野名誉教授のご意見ですので当然のことではありますが、的確なご指摘であるように思います。

 雇用にあたってどのような仕事が求められているのかは、被用者によって様々です。日本の会社の場合、ジョブディスクリプションを明確に定めることは稀ではありますが、通常、採用の時点で、何が求められているのかは概ね決まっています。一定規模以上の会社であれば、多くの場合、各人が面談を経て各年度の目標を決め、年度末に達成度が評価されます。
雇用の態様が多様である以上、解雇できるか否かも、個別の事情によらざるをえません。もちろん、類型化は必要であり、ある職業類型での相場が他の職業類型にそのままあてはまるわけではありませんが、全般に適用可能な基準をルールベースで決めることは困難です。

 解雇の金銭解決も、事実上、図られています。その理由は、解雇の不当性が認められたとしても、紛争後に現実に職場復帰することは困難であることも多いためです。
もっとも、個別の紛争の解決において事実上実現しているということと、法律に組み込まれて結論が予見可能であるということとは、別の問題です。金銭解決の制度化が求められている背景には、個別の事案の解決によるのではなく、集団に一律に適用することにより、経営の計画が決めやすくなるということもあるように思います。
 しかし、菅野先生が述べておられるとおり、一番の問題は、金額の基準をどのように決めるのかという点にあります。