2012-01-01から1年間の記事一覧

付与後レビューという名の付与後異議の復活

産構審知財政策部会特許制度小委員会は、本年の8月より、付与後の特許の見直し制度の議論を始めましたが、もうパブリックコメントの募集にこぎ着けました。(当初の議論について、http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20121019/1350656567) 「強く安定した権…

仮処分の申立て及び執行が不法行為となる場合と訴えの提起が不法行為となる場合

仙台高判平成23年5月12日判時2164号69頁は、 ・債権者の申立てを認容した仮処分命令が保全抗告審で取り消され、本案訴訟でも敗訴した場合に、仮処分命令の申立て及び執行が不法行為とされ ・上記不法行為に基づく損害賠償を求めた債務者の訴えの…

不法行為の国際裁判管轄

先週の新聞記事で、製鉄会社間の不正競争に関する訴訟において、国際裁判管轄が争点の一つとなっていると報じられています。 不正競争防止法4条の損害賠償請求は、民法709条の特則であると解されるため、日本の裁判所での管轄の有無は、民事訴訟法3条の…

サポート要件と実施可能要件との違い、明細書記載の課題はすべて解決されなければならないのか、記載要件と進歩性との両立

以前書いたとおり、http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20100930/1285858294サポート要件と実施可能要件とは、その守備範囲が相当に重複するものの、一致するわけではありません。知財高判平成24年10月29日(平成24年(行ケ)第10076号)は、そ…

薬理データの欠如はサポート要件違反か、実施可能要件違反か

平成15年にサポート要件の審査基準が改訂されて以降、特許庁は、医薬品の用途発明の出願で薬理データが欠けている場合には、サポート要件違反と判断してきました。「薬理データが無い場合には、目的とする疾患の治療が実現するか否か解らない、つまり、課…

サポート要件の「課題」と進歩性の「課題」

サポート要件の無効理由(拒絶理由)は、進歩性の無効理由(拒絶理由)を補完する役割を果たすことがあります。特許庁も、進歩性の拒絶理由とサポート要件の拒絶理由を同時に出して、挟み撃ちにすることがあります。 補完機能が働く代表例は、パラメータ発明…

付与後レビューという名の異議申立制度

現在、産業構造審議会知的財産政策部会の特許制度小委員会では、特許付与後の見直し制度が議論されています。配布資料のうち、「強く安定した権利の早期設定の実現に向けて」と題する資料が、この論点に関するものです。 日本では、かつての付与前異議は、平…

濫用的会社分割に対する詐害行為取消権の行使

いわゆる濫用的会社分割について、民法の詐害行為取消権の行使を認めた最高裁判決が出ています(最判平成24年10月12日)。 この争点については、最近、下級審判決を契機として、様々な学者及び実務者の論文及び評釈が出ています(例えば、伊藤先生、神…

組み合わせ薬のクレームの技術的範囲

[組み合わせ薬] 既存の薬Aと別の既存の薬Bとの組み合わせ(薬)というクレームの特許が成立することがあります。実際に、AとBとを一つの錠剤又はカプセル剤に入れた合剤が発売されることもあります。例えば、カデュエットは、ノルバスク及びリピトール…

メディアプレーヤーのための同期操作の特許権侵害訴訟 − 他社製品解析の難しさ −

アップルvサムスンの世界中で繰り広げられている一連のスマホ訴訟のうち、日本の訴訟で初めての判決が出ました(東京地裁平成23年(ワ)第27941号)。原告はアップル側、特許番号は4204977号(発明の名称は「メディアプレーヤーのためのイン…

発明の要旨認定(明細書を参酌した用語の解釈)、目的による物の発明の構成の特定、引用発明間の課題の共通性

[クレームの用語の意義] 以下のクレームを一読して、その意図がわかるでしょうか。「移動体の挙動を検出するセンサ部と 前記挙動を特定挙動とするための挙動条件に従って前記センサ部で検出された当該移動体の挙動において前記特定挙動の発生の有無を判定…

出願日の技術水準と予想外の効果、予想外の効果による進歩性と記載要件との関係

進歩性の考慮要素に、予想外の効果があります。 典型的な例が、AとBとの組み合わせによって、相加効果を超えた相乗効果が現れる場合です。化学や医薬の分野では、相乗効果が予測できる場合は、例外的です。 他の例として、当時の技術水準では、必要条件は…

翻案の成否と「本質的特徴の直接感得」

携帯電話向け釣りゲームの「魚の引き寄せ画面」の翻案権侵害を巡って争われた事件の控訴審判決が出ています。一審は翻案権侵害を肯定し、その結論が意外であったのですが、控訴審は、翻案権侵害を否定しました。 今日、翻案権の規範として、江差追分事件の最…

 応用美術の著作物性

[文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの] 著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)です。 「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」は、これらの4…

継続的契約の終了

販売代理店契約やフランチャイズ契約など、取引が長期間にわたることが予想される契約(いわゆる継続的契約)では、(i)契約の終期がそもそも定められていなかったり、(ii)契約期間は定められているものの、自動更新条項(いずれの当事者も更新拒絶をしない限…

発明の要旨認定と明細書の参酌

知財高判平成23年10月20日(判時2140号55頁)では、本願発明の要旨認定(とりわけ、「撮影処理」及び「編集処理」の解釈)にあたり、明細書が参酌されています。そして、明細書の参酌について「本件補正発明や引用発明の特許請求の範囲の記載に…

侵害訴訟と無効審判での結論の相違

クレンジングオイルの特許の侵害訴訟と無効審判とで、無効に関する結論が分かれています(東京地判平成24年5月23日(平成22年(ワ)第26341号)及び無効2010−800204)。 両者とも、主引例(特開2006−225403号公報)は同一で…

不正競争防止法の差止請求による商号及び名称の抹消登記

原告が自然人及び権利能力なき社団、被告が一般社団法人という事案で、不正競争防止法の差止請求(2条1項1号(周知な商品等表示)及び3条1項)が認容された判決が出ています(東京地判平成24年6月29日(平成23年(ワ)第18147号))。 主文…

違法ダウンロードの刑事罰化と音楽配信のコピー制限撤廃

本日の日本経済新聞の朝刊に、違法ダウンロードを刑事罰化する著作権法改正が成立したため、レコード会社がインターネット配信の楽曲のコピー制限を廃止するとの記事が掲載されています。 著作権法の改正は、一つの契機にはなったのかもしれません。しかし、…

周知技術の認定、引用発明と本願発明との課題の相違

進歩性の判断にあたり、 ・本願(本件)発明と主引用発明との相違点を認定し、 ・相違点に対応する周知技術を認定し、 ・主引用発明に対し周知技術を適用して相違点の構成とすることは、当業者にとって容易に想到する事項である という判断がなされることが…

パラメータ発明の進歩性

クレーム中に技術的な変数の数値範囲が含まれている発明は、数値限定発明と呼ばれます。数値限定発明とパラメータ発明とは厳格に使い分けられているわけではありませんが、しばしば、パラメータ発明は、数値限定発明の下位概念として使用されています。つま…

技術分野の相違と動機づけ

知財高判平成24年1月16日判決(平成23年(行ケ)第10130号) http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120118085934.pdf では、 http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20120603/1338735401 で触れた相違点とは別の相違点の判断について、審決には誤…

弁護士の就職難

昨日(2012年6月4日)の日本経済新聞の法務欄に、「弁護士の就職 開拓の余地」と題する記事が載っています。見出しには「企業や役所、法曹ニーズは拡大」、「人材のミスマッチ課題」などという言葉が並んでいます。 この記事は、すでに法科大学院入学という…

実施例による引用発明の認定、引用発明の認定の誤りが結論に影響しない場合

新規性及び進歩性の判断にあたっては、本件(本願)発明の認定に続いて、それと対比されるべき主引用発明の認定が行われます。 1つの引用例には、様々な発明が記載されています。引用例が公開公報である場合を例にとると、最も抽象的な(上位概念の)のアイ…

特許権の譲渡と通謀虚偽表示

会社の資金繰りが苦しくなると、債権者は債権回収を急ぎ、資産を差押え始めます。重要な資産を失うと、事業の継続は難しくなります。もっとも、会社の事業の中には、収益の改善の見込みが立たないものばかりではなく、継続が見込まれるものもあります。そこ…

記載要件と進歩性との関係

前回の事案は、記載要件と進歩性との関係という点でも、興味深いものです (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120417155305.pdf) 記載要件の適合性については、明細書の技術常識を考慮すると、当業者は発明を実施することができ、クレームが課題を解決…

サポート要件と実施可能要件(2)

組み合わせ薬について、実施可能要件及びサポート要件が争われた事案の審決取り消し訴訟の判決が公開されています。この事案は、記載要件と進歩性との関係という点でも、興味深いものです (http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120417155305.pdf)[実施…

営業秘密の不正取得

日本の大手製鉄会社(原告)が、韓国の大手製鉄会社(被告)に対し、電磁鋼板の製造方法に関し、不正競争防止法の営業秘密不正取得行為(不正競争防止法2条1項4号;報道の内容からすると、取得のみならず、不正取得した営業秘密の使用行為も含まれている…

私的録音録画補償金制度とアナログチューナー非搭載DVD録画機

アナログチューナー非搭載DVDレコーダが私的録音録画補償金制度(著作権法30条2項及び施行令1条)の対象であるか否かを巡って、第1審(東京地判平成22年12月27日(平成21年(ワ)第40837号))、控訴審(知財高判平成23年12月22…

数値限定発明と設計事項

組成物や合金の分野では、使用できる成分が出尽くしているため、成分の組み合わせ、含有割合の限定、新たなパラメータの創出などによって選択発明による権利化をせざるを得ないことがあります。 もっとも、成分を組み合わせても単なる足し算にとどまっている…