不正競争防止法の差止請求による商号及び名称の抹消登記

 原告が自然人及び権利能力なき社団、被告が一般社団法人という事案で、不正競争防止法の差止請求(2条1項1号(周知な商品等表示)及び3条1項)が認容された判決が出ています(東京地判平成24年6月29日(平成23年(ワ)第18147号))。
主文は、
・被告は、その事業上の活動のため、○○の名称及び・・・の文字を含む名称を使用してはならない。
・被告は、別紙登記目録記載の設立登記中、○○の名称の抹消登記手続きをせよ
です。

 不正競争防止法の差止請求の判決で、「抹消登記手続きをせよ」という主文は、頻繁ではありませんが、時々あらわれます(例えば、東京地判平成15年6月27日)。もっとも、昭和20−30年代には、確定判決があっても、会社の商号の抹消登記の申請は受理されていませんでした。その理由は、商号が必要的登記事項であり、商号を抹消すると会社の名称がなくなってしまうからです。しかし、昭和37年に民事局通達が出され、「抹消前の商号に『抹消前商号』の文字を冠記する」という取り扱いとなっています。
 
 商号や名称の抹消登記の請求にあたっては、不正競争防止法3条以外にも、会社法8条、商法12条、一般社団・財団法人法7条も根拠となります(この事案では、原告は会社、商人、社団法人の何れでもないため、これらの条文に依拠することはできません。)。

会社法
第八条  何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。
2  前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある会社は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

商法
第十二条  何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。
2  前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある商人は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。


一般社団・財団法人法7条
第七条  何人も、不正の目的をもって、他の一般社団法人又は一般財団法人であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。
2  前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって事業に係る利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある一般社団法人又は一般財団法人は、その利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

 いずれについても、不正競争防止法とは異なり、周知性又は著名性は不要です。その一方で、「不正の目的」が必要です。
 会社法8条及び商法12条は、旧商法21条に由来するものではあります。しかし、旧商法の商号に関する規定(19条―21条)の枠組みは、会社法制定によって変容しています。そのため、会社法8条の「不正の目的」を旧商法21条の「不正目的」と同義と解して良いのか否か、議論のあるところです。