付与後レビューという名の異議申立制度

 現在、産業構造審議会知的財産政策部会の特許制度小委員会では、特許付与後の見直し制度が議論されています。配布資料のうち、「強く安定した権利の早期設定の実現に向けて」と題する資料が、この論点に関するものです。

 日本では、かつての付与前異議は、平成6年改正で付与後異議となり(日米包括協議でのアメリカからの要請に沿ったものです。)、平成15年改正で付与後異議も廃止され、無効審判に一本化されるとともに、情報提供制度を付与後も利用できるようにして、異議制度のニーズの受け皿とした、と説明されてきました。
 しかし、実際には、無効審判でも情報提供制度でも、従前の付与後異議のニーズを取り込むことはできませんでした。付与後異議の件数は、年間約3000件であったところ、無効審判の件数は、概ね年間約300件弱で推移しています。つまり、無効審判の件数は、付与後異議よりも1桁少ないままなのです。付与後の情報提供制度の件数も、100件未満で推移しています。

 日本が付与後異議を廃止した後になって、当のアメリカが、今回の法改正により、Post-Grant Reviewの制度を導入しました。この制度は、アメリカ版付与後異議とよんでもよいような内容を備えています。さらに、日本でも、早期審査や優先審査を利用することにより、出願公開の18月前に特許される事例が増えてきました。このまま滞貨が減少すると、通常の審査でも、出願公開前に特許される事例が増大することが予想されます。
 しかも、最近は、特許の質の低下を指摘する声も出てきました。配布資料の「強く安定した権利の早期設定の実現に向けて(2)」では、「当たり前の技術が権利化されてしまうことが増えている」、「品質の低い特許権が乱立している」との懸念も表明されています。

 その結果、付与後異議の廃止から10年経たないうちに、「付与後レビュー」が議論されています。現在有力とされている案にはC−2案及びC−3案があり、C−2案は、「従前の付与後異議申立制度に類似」と説明されています。

 第三者からみると、付与後異議と無効審判とでは、使用目的が異なっていたように思います。付与後異議の場合、様々な会社が様々な証拠を提出する可能性があり、審判官が職権で取消理由を修正してくれる期待もありました。しかも、申立人は、審理開始後に関与しなくてよいため、手続きの負担が軽くて済みました(被申立人と特許庁との間で手続きが進んでしまうことは、訂正も考慮すると、申立人にとってデメリットではあります)。
 付与後の情報提供制度は、第三者からみると、そのメリットが解りにくい制度です。第三者が強い証拠を見出したのであれば、特許権者から交渉を持ちかけられた際に、その証拠を提示して、有利な条件で(例えば無償で)ライセンスを得ればよいのです。他社は、その証拠を見つけていないかもしれません。その場合には、他社は、不利な条件でライセンスを締結、あるいは事業を撤収するかも知れません。その結果、証拠を見出した会社は、その成果に見合った利益を得ることができます。
 もちろん、逆の立場になっていることもあります。自社では証拠を見つけられないため、他社よりも不利な条件で交渉をせざるを得ないこともあるでしょう。社会全体でみると、無効になるべき権利を消滅させた方が、全体の便益は増大するのですが、個々の場面で利益を最大化するのであれば、強力な証拠は他社に開示しない方がよい、という合成の誤謬が生じます。
 制度設計において、証拠を出し合うインセンティブが必要であるように思います。