改変した商品について商標を付したまま販売する行為

 原則として、第三者は、他人の登録商標を使用する権限を有していません。しかし、出所表示機能及び品質保証機能を害さない態様での使用行為(例えば、流通経路での転売)は、実質的な違法性を欠くため、商標権侵害の責任を問われることはありません。

 その一方、商標の付された真正商品を購入した後、当該商品に改変を加え、商標を付したままで販売する場合、商品の品質は変わっています。しかも、出所は、純粋に権利者であるとはいえません。そこで、真正商品に改造が加わった場合に、商標権侵害が肯定された事案があります(東京地判平成10年12月25日、東京地判平成4年5月27日)。
 しかし、改造品だと明記して販売する場合には、品質が異なることが明示されているため、品質保証機能が害されているのかという問題が生じます。しかも、改造者を表示する場合には、元々の出所(商標権者)とその後に手を加えた者の2名が明示されているのですから、出所表示機能が害されているのかという問題も生じます。さらに、改造者が正規の購入者から委託を受けて改造する場合と、予め改造してから販売する場合と、どれほどの差があるのかという問題もあります。
 もっとも、商標権者は、業としての流通ルートでは商品の品質をコントロールする権限を有していると解すると、打消し表示(改造品であること及び改造者の表示)によっても、商標権者の利益は害されるといえます。

 最近の名古屋高判平成25年1月29日(平成24年(う)第125号)では、被告人は、著名なゲーム機のファームウェアを改変し、商標が付されたままネットオークションに出品し、第三者に譲渡していました。ファームウェアの改変により、正規品では不可能な動作が可能となっていました。しかし、ネットオークションでは、「ハック済み」(つまり、ファームウェア書き換え済み)と表示していました。
 判決は、真正品に付された商標がそのままにされており、商標を打ち消す何らの表示もされていないことを理由に「「ハック済み」であることを明示してインターネットオークションに出品していることは、商標権侵害の成否を左右する有意の事情とはいえない。」と判断しています。そして、改造された商品の提供主体が商標権者とはいえないこと、「需要者の同一商標の付された商品に対する同一品質の期待に応える作用をいう商標の品質保証機能が損なわれていること」を理由に、実質的違法性が阻却される根拠はないと判断しています。