FRAND条項による権利濫用

 報道によると、アップルとサムスンスマホ訴訟(サムスンが原告のもの)において、地裁は、サムスンがFRAND条項にもかかわらずアップルと誠実に交渉しなかったことを理由として、請求を棄却したそうです。

 FRANDとは、Fair, Reasonable And Non-Discriminatoryの略称です。技術標準を使用すると特許権の実施を伴うという場合、特許権者は、その業界を支配できてしまいます。そこで、技術標準の採択にあたり、それに加わった特許権者は、FRAND条件でライセンスをする義務を負うことが一般的です。つまり、特許権者は、第三者が使用許諾を求めると、ライセンスを適切な価格で売らなければなりません。換言すると、第三者は、実施権限があるという抗弁を購入できるということになります。第三者の申入れにもかかわらず、特許権者が不当に抗弁の販売を拒むという場合には、その状況が抗弁となっても良いはずです(相手方が弁済の受け取りを拒む場合には、弁済の提供でも抗弁になるのと同様です。)。

 日本では、FRANDが特許権侵害の抗弁で現れたことは、これまでには無かったと思います。
 しかし、オランダやドイツでは、既に同様の事例が生じており、差止請求が棄却された例があるようです。その場合、損害賠償をどのように計算するのかという問題が残ります。被疑侵害者は、自由に特許発明を実施できたわけではなく、FRAND条件でのロイヤルティを支払わなければならなかったはずです。