外国判決の執行判決を求める訴えと債務不存在確認訴訟における訴えの利益との関係、民事訴訟法3条の5第2項は特許権の登録に適用されるか

 東京地判平成25年2月19日(平成22年(ワ)第28813号は、外国判決の執行判決を求める訴えが係属していることを理由に、当該外国判決の判断対象である権利義務に関する債務不存在確認の訴えは、確認の利益を欠くと判断し、訴えを却下しました。

 事案の概略は、以下のとおりです(事案の説明に必要な限度で簡略化した部分もあり、完全なものではありません。)。
X(日本法人)とY(韓国法人)は、
・Xは、Yに対し、Xの保有する日本の特許権を譲渡する。
・管轄裁判所は、ソウル中央地方法院とし、準拠法は韓国法とする。
と合意しました。
 Yは、Xに対し、特許権移転登録手続の履行を求め、ソウル中央地方法院に訴えを提起しました。Yの訴えは一審では棄却されたものの、控訴審では認容され、確定しました。
そこで、Yは、日本の裁判所に、当該判決についての執行判決を求める訴えを提起しました(民事執行法24条(外国裁判所の判決の執行判決))。その一方、Xは、Yに対し、特許権について移転登録手続きを求める権利を有しないことを確認する訴えを提起しました。


 民事執行法24条3項は、「第1項の訴えは、・・・民事訴訟法第118条各号に掲げる要件を具備しないときは、却下しなければならない」と規定しており、民事訴訟法118条1号は、外国裁判所の確定判決がその効力を具備する要件の一つとして、「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること」を挙げています。
 平成23年に改正された民事訴訟法3条の5第2項は、「登記又は登録に関する訴えの管轄権は、登記又は登録をすべき地が日本国内にあるときは、日本の裁判所に専属する」と規定しています。この条項の典型的な適用場面は、不動産の登記です。不動産については、その所在地に専属管轄があるということは、一般的に受け入れられています。平成23年改正の改正作業では、知的財産の登録も、民事訴訟法3条の5第2項の守備範囲と考えられていました(平成21年7月10日「国際裁判管轄法制に関する中間試案(案)」)。
 この改正法の施行は、この訴えの提起後です。しかし、改正法の上記条項は、創設的な規定ではなく、従前の裁判例の依拠していた説を確認的に規定したものと解されています。改正法の施行の前後にかかわらず、特許権の登録について日本の裁判所に専属管轄があるという立場にたつと、上記の韓国での判決は、日本の民事訴訟法118条1号(「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること」)の要件を欠いており、その結果、日本では執行できません。この点については、民事執行法24条による外国判決の執行判決を求める訴えの審理において判断されます。別途、消極確認の訴えを審理する必要はありません。
もちろん、民事執行法24条の訴えは、通常の給付訴訟とは異なります。しかし、確認判決の訴えの利益の有無という文脈では、同種の性質を有しています。


より本質的には、日本の特許の登録について日本の裁判所に専属管轄を認めるべきなのかという問題があります。
特許権の移転の効力は、登録によって生じます。しかし、移転の成否は、当事者間の譲渡契約に依存します。契約の紛争については、当事者が自由に準拠法及び管轄地を定めることができます。それにもかかわらず、登録の場面では日本に専属管轄があるということになってしまいます。
実際上の問題として、特許の場合、パテントファミリー全体が譲渡の対象であるということもあります。そのような場合に、登録地に専属管轄があるとすると、登録国ごとに管轄地を決めなければならないという問題も生じます。この事案でも、譲渡の対象は日本特許だけではなく、対応外国特許も含まれています。