庭園の著作物に対する建築の著作物の条項の適用 (同一性保持権の一般条項としての著作権法20条2項4号)

[建築の著作物の特殊性]
 著作権法では、著作物の例示として、建築の著作物が挙がっています(10条1項5号)。

 建築の著作物では、第三者にその利用が広く認められるとともに(46条2号;「建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合」を除き、利用することができます。)、同一性保持権についても、特則が置かれています(20条2項2号)。つまり、「建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変」については、同一性保持権の条項(20条1項)は適用されません。
 建築の著作物について上記のような例外規定がある理由としては、以下の点が挙げられます。

・建築の著作物は、一般に公開されており、街の景観の一部となっている。第三者の利用を制限すると、第三者の行動や表現の自由を過度に抑制しかねない。

・建築物は、人の居住など実用的な用途のために作成されており、一定の改変は、実用的な見地から不可欠である。

 その結果、著作物が「建築」の著作物に振り分けられるか、それとも「美術」の著作物に振り分けられるかによって、権利の効力が変わってしまいます。「建築」か否かが微妙な著作物について、この問題は重大です。
 従前より、庭園やゴルフ場について、「建築」の著作物であるか否か、議論されてきました(中山先生の基本書の75−76頁)。この論点については、中山先生がご説明されているとおり、「居住等の実用目的から容易に改変を認めることが妥当なものが建築物であり、実用目的から離れているのが美術」といえます。


[同一性保持権]
 同一性保持権の例外規定(20条2項各号)には、包括規定として、末尾の4号があります。したがって、庭園やゴルフ場の著作物などが「建築」の著作物ではない(つまり、20条2項3号の適用がない。)としても、20条2項4号で改変が許されることもあるはずです。
しかし、20条2項4号の適用範囲は、従前、厳格に解されていました。
 20条2項全体は、以下のとおりです。

前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。
一  第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの
二  建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変
三  特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変
四  前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変


[20条2項4号の解釈]
 20条2項4号については、松田政行先生が、
・厳格説(通説)
・翻案許容説(田村説)
・利益衡量説(上野説)
という整理をされています。
 
 従前、20条2項4号も厳格に解釈運用すべきとし、4号の「やむを得ない」とは1号の「やむを得ない」と同じ厳格性を指すという見解が支持を集めてきました(厳格説)。この解釈では、4号の適用は、改変が必要な範囲にあるだけでは足りず、他に改変の方法がなく、その改変の程度が最小であることまで求められます。
 
しかし、近年、このような解釈では限定的にすぎるのではないかという批判が起きています。
 さらに、建築の著作物については、「増築、改築、修繕又は模様替え」が「やむを得ない」改変であるともいえます。したがって、厳密な意味で建築の著作物であるか否か微妙な著作物であっても、「増築、改築、修繕又は模様替え」に類する行為については、20条1項4号の適用が可能であるはずです。

[大阪地裁平成25年9月6日決定(平成25年(ヨ)第20003号)]
  大阪地裁平成25年9月6日決定の事案は、庭園の著作物について、著作者が、新たな工作物の設置工事の続行禁止を求めて仮処分を申し立てたというものです(結論として、申立てを却下。)。
 
争点の一つは、
・問題の庭園の著作物が建築の著作物に該当するのか、
・仮に建築の著作物であるとしても、債務者は、20条2項2号の抗弁(同一性保持権の例外規定)によって、工事を続行できるのか、
でした。
 
 裁判所は、20条2項2号の類推適用により、同一性保持権の侵害を否定しました。その判示内容からすると、むしろ、問題の庭園の著作物は建築の著作物に該当すると判断してもよかったのではないかと思えます(前述の中山先生の基本書を参照)。もっとも、20条2項4号が控えていることからすると、20条2項2号の類推適用することは適切であると思います。

「既に述べたとおり,本件庭園は,自然の再現,あるいは水の循環といったコンセプトを取り入れることで,美的要素を有していると認められる。
しかしながら,本件庭園は,来客がその中に立ち入って散策や休憩に利用することが予定されており,その設置の本来の目的は,都心にそのような一角を設けることで,複合商業施設である新梅田シティの美観,魅力度あるいは好感度を高め,最終的には集客につなげる点にあると解されるから,美術としての
鑑賞のみを目的とするものではなく,むしろ,実際に利用するものとしての側
面が強いということができる。
また,本件庭園は,債務者ほかが所有する本件土地上に存在するものであるが,本件庭園が著作物であることを理由に,その所有者が,将来にわたって,本件土地を本件庭園以外の用途に使用することができないとすれば,土地所有権は重大な制約を受けることになるし,本件庭園は,複合商業施設である新梅田シティの一部をなすものとして,梅田スカイビル等の建物と一体的に運用されているが,老朽化,市場の動向,経済情勢等の変化に応じ,その改修等を行うことは当然予定されているというべきであり,この場合に本件庭園を改変することができないとすれば,本件土地所有権の行使,あるいは新梅田シティの事業の遂行に対する重大な制約となる。
以上のとおり,本件庭園を著作物と認める場合には,本件土地所有者の権利行使の自由との調整が必要となるが,土地の定着物であるという面,また著作物性が認められる場合があると同時に実用目的での利用が予定される面があるという点で,問題の所在は,建築物における著作者の権利と建築物所有者の利用権を調整する場合に類似するということができるから,その点を定める著作権法20条2項2号の規定を,本件の場合に類推適用することは,合理的と解される。」