共有特許権者による損害賠償請求と特許法102条

 特許権がAとBとによって半分ずつ共有され、Aは特許発明を実施し、Bは実施していないということは、しばしば起こります。そして、第三者がその特許権を侵害したとします。

 共有者は、特許権を単独で保有する場合と同様、特許発明を自由に実施できます。そこで、Aは、特許法102条1項又は2項にしたがい、単独保有と同じ額の損害賠償を求めます。つまり、Aは、Aの持分割合を超えて、Bの持分割合についても、特許法102条1項又は2項の損害賠償額を請求します。
その一方、不実施のBも、特許法102条3項にしたがい、実施料相当額の半分を請求します(*:各々の持分が半分ずつですので、AB両者とも不実施であれば、Bは、実施料相当額の半分しか請求できません。Aが実施しているからといって、Bの請求額が増えるとは思えません。)。

 そうすると、Bの持分については、Aによる特許法102条1項又は2項の請求と、Bによる特許法102条3項の請求とが、重複します。

 このような帰結は、正しいのでしょうか。正しくないとしたら、どのような調整が適切なのでしょうか。

 知財高判H22.4.28(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100430165235.pdf)の事案は、上記の事案と類似しています。もっとも、知財高判H22.4.28の事案では、不実施の共有権利者が、実施の共有権利者に対し、自らの損害賠償請求権を譲渡したため、重複の問題は回避されました。しかし、権利譲渡がなければ、どのような判断が適切であったのでしょうか。

 これまでにも、似たような事案はいくつか生じているのですが、当事者が持分割合に応じた請求しかしていなかったり、持分割合を超える請求がなされていても、実施の程度についての立証が欠けていたりしたため、十分な議論がなされてきたわけではありません。

 個人的には、損害を填補するという趣旨からすると、Aは、実施の程度に応じ(上記の設例では、100%)、特許法102条1項又は2項の請求ができ、Bは、持分に応じ(実施料相当額の請求は、持分に応じたものと理解します。)、特許法102条3項の請求ができると考えます。現在の特許法では、重複が生じることは避け難いため、各権利者の請求の段階で、あえて持分で上限を画する必要はありません。

 重複部分は、債権については異例ではありますが、不真正連帯と考えます。
 重複部分の分配(内部求償)は、(1)Aの102条1項又は2項の額とBの102条3項の額とで比例按分する、(2)Bに102条3項の額を与え、残余をAに帰属させる、という案が挙げられます。102条3項の趣旨を、フィクションとしての最低補償条項と考えるなら、(2)が妥当です。