外国で開始された倒産手続の管財人の権限とライセンス契約の解除

 キマンダの事件について

http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20100929/1285857897

昨年末、第4巡回区控訴裁判所の判決が出ました。

結論としては、外国管財人が、当該外国の倒産法では、双務未履行契約を解除する権限を有していても、各当事者の利害のバランスを考慮して、連邦破産法365条(n)が適用される(つまり、外国管財人は、債務者の保有する特許についてのライセンス契約を解除できない)、というものです。


[経緯]
 この事件の経過は、以下のとおりです。

・ドイツにおいて、キマンダの倒産手続きが開始され、管財人J氏が選任された。キマンダは、米国特許約4000件を保有しており、この特許は、主要な資産であった。

・J氏は、連邦破産裁判所に対し、ドイツの倒産手続きを連邦破産法1517条の外国種手続として承認するよう求めるとともに、米国内でのキマンダの資産の管理権限を付与するようを求めた。

・連邦破産裁判所は、J氏に対し、連邦破産法1521条(a)(5)による適切な救済(具体的には、J氏を米国における唯一かつ独占的な代表にするとともに、米国内でのキマンダンの資産を管理する権限の付与すること)を許可した。
(1521(a)(5)は、債務者の財産の全部又は一部の管理又は現金化を外国管財人等に委ねることを規定する。(“entrusting the administration or realization of all or part of the debtor’s assets within the territorial jurisdiction of the United States to the foreign representative or another person, including an examiner, authorized by the court;”))

・J氏は、(債務者の財産の一部の管理という上記の権限に基づき)キマンダのライセンシーに対し、ライセンスはもはや効力を失ったことを通知した(J氏は、新たなライセンス契約を締結する準備があったと後に語っている。)。

・ライセンシーは、連邦破産法365条(n)によってライセンス(実施権限)は保護されていると主張した。

 事件は、
連邦破産裁判所(365条(n)の適用排除;ドイツ法にしたがって外国管財人はライセンス契約を解除できる)→ 
連邦地裁(差戻し)→ 
連邦破産裁判所(365条(n)の適用あり。)→
第4巡回区控訴裁判所

という経緯をたどりました。

控訴審の判断]
 連邦破産法1522条には、1521条(a)の適切な救済に関し、
「the court may grant relief under section 1519 or 1521, or may modify or terminate relief under subsection (c), only if the interests of the creditors and other interested entities, including the debtor, are sufficiently protected.」
と規定されています。つまり、適切な救済については、利害関係人の利益が保護されることを条件とするという一般条項があります。
 
この条項に関し、控訴審は、各利害関係人の利害を考慮するbalancing testを採用しました。そして、控訴審は、経済のグローバル化も考慮に入れて、連邦破産裁判所の判断(356条(n)が適用されるという判断)を支持しました。

[日本の法制]
 今回問題となった一連の条文は、連邦破産法チャプター15に含まれています。チャプター15は、UNCITRALのモデル法を参考にして制定されました。
 日本でも、モデル法を参考にして、外国倒産処理手続の承認援助に関する法律が制定されています。同法では、援助の処分として、管財人に対する管理命令等を定めています。これらの内容は、連邦破産法1521条(a)に相当します。

32条(管理命令)
1項
「裁判所は、承認援助手続の目的を達成するために必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、外国倒産処理手続の承認の決定と同時に又はその決定後、債務者の日本国内における業務及び財産に関し、承認管財人による管理を命ずる処分をすることができる。」

34条(承認管財人の権限)
「管理命令が発せられた場合には、債務者の日本国内における業務の遂行並びに財産の管理及び処分をする権利は、承認管財人に専属する。」

35条(承認管財人の財産の処分等に関する許可)
1項
「承認管財人が債務者の日本国内にある財産の処分又は国外への持出しその他裁判所の指定する行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。」

 35条1項にあるとおり、管財人が債務者の財産の処分をする場合(例えば、特許権を売却して換価する場合)には、裁判所の許可が必要です。しかし、ライセンス契約の解除は、「財産の処分」といえるのか、問題が残ります。