本件発明の認定、容易想到性の総合考慮に効果は考慮しなくてよいのか

知財高判平成26年5月29日(平成25年(行ケ)第10200号)では、訂正後の発明の「そのまま」の意味が問題になりました。

「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用
いて抽出して得られる菜種粕であって,
 2 メッシュ篩下の含量が38.8〜55.6%である前記菜種粕を
 そのまま32〜48 メッシュのいずれかの篩にかけて,粒径が前記メッシュ篩上の粗粒度菜種ミールと,粒径が前記メッシュ篩下の細粒度菜種ミールとに分画することからなる,
菜種ミールの製造方法。」

 特許庁は、「そのまま」の記載が本件明細書にはなく、「そのまま」の技術的意義が不明であると判断し、訂正を認めませんでした。そして、訂正前のクレームに関し、特許は無効であると判断しました。

 それに対し、裁判所は、本件明細書も考慮した上で、「そのまま・・・篩にかけて」との限定は、

「篩分けの対象が,①によって限定された「菜種粕」(注:「菜種を圧搾機により搾油し,続いて圧搾粕に残された油分を有機溶剤を用いて抽出」するという2段階搾油工程を経て得られる菜種粕(2段階搾油菜種粕))にさらに何らかの処理を施したものではなく,①によって限定された「菜種粕」そのものであることを強調し、明瞭にする」

と判断し、訂正を認めるべきと判断しました。

 この訂正に基づいて、判決は、審決の容易想到性の判断の誤りも認めました。

 判決の認定によると、菜種油を得た際に副生する菜種粕について、上記の2段階搾油工程の後、さらに整粒が施されていたようです。整粒では、分級→粗粒子の機械粉砕→分級・・・の繰り返しが行われ、その結果、元々微細であった粒子と粗粒子の粉砕によって生じた粗粒子との混合物が得られます。

 それに対し、本件明細書によると、整粒前の微細な粒子と粗い粒子とは、異なる特徴を有しています。前者は、タンパク質含量が高く、後者は、苦味物質がマスキングされているとされています。したがって、整粒なしに「そのまま」分級すると、2つの異なる性質の粒に分離することができます。訂正発明の技術的な意味は、この点にあるのだろうと思います。


 判決は、被告の主張(訂正発明は顕著な効果を奏さない旨の主張)に関し、

「訂正発明3の構成は,前記説示のとおり,甲1発明から容易に想到することができるものとはいえないのであるから,審決の判断は,この点で既に誤っており,それ以上に,訂正発明3に顕著な効果があるかどうかを論じる必要はない。」

と排斥しました。
 
確かに、考慮要素を構成の容易想到性と効果の顕著性とに大別し、まず前者を検討するという伝統的な枠組みでは、上記の判示内容も理解できます。その一方、本件発明が従来技術と比較して何を達成したのかがよく分からない(つまり、相違点の技術的な位置づけが明らかではない)という場合に、課題の共通性、機能・目的の関連性が乏しいことのみをもって、容易想到性を否定してよいのか(進歩性を肯定してよいのか)という点には、議論のあるところです。
 相違点の技術的な価値が乏しいというのであれば、相違点の構成とすることは設計事項であるとして片づけられてしまいます。

 もっとも、この事案の場合、判決は、訂正発明について、相違点を設計事項とすることなく、上記の技術的意義を認めているように思います。つまり、顕著な効果について論じるまでもないという判断の前段階として、訂正発明の価値は認めているのでしょう。