米国特許商標庁での無効化手続き(IPR及びPGR)におけるクレーム解釈

米国では、特許庁(USPTO)での特許性判断の場面でのクレーム解釈(日本の要旨認定)と、侵害訴訟でのクレーム解釈(日本の侵害論での技術的範囲の確定と無効の抗弁での要旨認定の双方)とは、異なっています。USPTOでは、特許付与の審査過程でも、再審査でも、reasonably broadest constructionが採用される一方、侵害裁判所では、侵害論と無効論とに共通して同じクレーム解釈が採用され、そのクレーム解釈は、Phillips v. AWH Corp. 45 F.3d 1303 (Fed. Cir. 2005)によります。つまり、理論的には、侵害裁判所では、明細書の記載を参酌することができます。

 最近の特許法改正(AIA)にあたり、特許庁での無効化手続きとして、PGR及びIPRが導入されました。その手続きでのクレーム解釈について、法律上は何も定められていなかったものの、特許庁は、従前の特許庁での手続きと同様、reasonably broadest constructionを規則で採用しました。もっとも、パブコメでも、この方針については異論もあったところです。

 最近の In re Cuozzo Speed Technologies, LLC(2014-1301)では、CAFCでこの論点が初めて争われました。多数意見は、reasonably broadest interpretationを支持しました(Newman判事の反対意見があります。)。多数意見は、その理由として、(i)100年以上にもわたり、特許庁ではreasonably broadest interpretationが採用されてきたこと(多数の判決が引用されています。)、(ii)議会は、その運用を知りつつ、それに反する立法をしていないこと、(iii)316条(a)(2)でPTOには規則を制定する権限が与えられていることを挙げています。
 実質的な観点では、IPR及びPGRでも、通常の審査と同様、(制約は加えられているとはいえ)補正の期間が与えられているという点が挙げられます。多数意見の12頁には、PTOでのreasonably broadest interpretationを支持した過去の判決が多数引用されていますが、これらの判決では、有効性の推定が働く侵害訴訟と特許庁の手続きとの違い、正当化されるよりも広い範囲で特許されることを防ぐという公益的な側面も挙げられています。
 
 以上のとおり、特許庁の無効化手続きと裁判所の手続きとの間でのクレーム解釈のダブルスタンダードは、CAFCでも是認されました。日米の違いは、侵害訴訟での無効の抗弁のクレーム解釈を、特許庁の側にするか、侵害判断の側にするのかという点にあります。何れが理論的に正しいというわけではなく、歴史的な経緯、特許庁の手続きと無効の抗弁との整合性を重視するか、同一の裁判体による手続きの統一性を優先するのかという価値観の違いにあります。