均等の第4要件と公知技術の抗弁、そして無効の抗弁との関係

 東京地判平成24年3月25日(平成26年(ワ)第11110号)では、均等侵害の主張に関し、裁判所が「事案に鑑み、均等の第4要件から判断する」との方針のもと、均等の第4要件が充足されていないと判断し、請求を棄却しました。第4要件から判断するという事例は、珍しいように思います。

 均等の第4要件は、
「(4) 対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく」
であり、その根拠は、
「他方、特許発明の特許出願時において公知であった技術及び当業者がこれから右出願時に容易に推考することができた技術については、そもそも何人も特許を受けることができなかったはずのものであるから(特許法二九条参照)、特許発明の技術的範囲に属するものということができず」
という点にあります(最判平成10年2月24日第・民集52巻1号113頁)。
第4要件の趣旨は、仮にクレームに対象製品が入るようにドラフトしていたら、無効理由があるため権利を行使できなかったにもかかわらず、予め狭いクレームで権利を取得して均等論を使って広い範囲の権利を脱法的に行使することのないようにする、という点にあります。なお、上記のボールスプライン事件の最判は、キルビー事件の最判よりも2年前であったという背景事情があります。

 普通の無効の抗弁では、発明の要旨は、クレームに基づいて認定されます。その一方、均等論では、クレームの外側が問題になっています。そのため、均等論の主張に対し、無効の抗弁は、十分に機能しないおそれがあります。第4要件は、その代替手段としての機能も有しています。

 「対象製品が新規性又は進歩性を欠く場合に、権利行使を認めない」という発想は、公知技術の抗弁と共通するものがあります。
無効の抗弁(104条の3)の場合、クレームのどの部分の無効を主張してもよいのですが、特許を完全に殲滅するためには、その中心となる部分(典型的には、実施例の辺り)の無効理由を構築することが適切です。その一方、対象製品について権利行使を回避できればよいという視点では、対象製品が新規性又は進歩性を欠いていれば足ります。
以上のとおり、どの部分を無効にすればよいのかという観点で、両者では違いが生じます。
 さらに、交渉の場面では、「貴方の特許は無効」と言うよりは、「自分の製品には進歩性がない」、と言った方が、相手を刺激しなくてよいという場合もあります。

 なお、実際の対象製品は、具体的な物ですので、全ての構成を余すことなく特定した上で進歩性がないことを立証することは困難です。あくまで、特許発明との比較対象に必要な限度で、対象製品を特定し、その構成について、進歩性が欠けることを検討する必要があります。