プロダクト・バイ・プロセスクレームの審査・審判の取扱い

最高裁判決(最判平成27年6月5日(平成24年(受)第1204号及び同第2658号))
http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20150609/1433858808
を受けて、特許庁は、プロダクト・バイ・プロセスクレームの審査を中断し、その取扱いを検討していましたが、
http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20150611/1434034701
その結論が公開されました。

 当面の審査・審判の取扱いは、当たり前ではありますが、最高裁判決に沿っています。プロダクト・バイ・プロセスクレーム以外のクレーム(例えば、機能的クレーム)の審査・審判については、特に言及されていません。
 運用には、特許庁の配慮がうかがえる事項もありますが、掲載された事例には、判りにくいものもあります。

 まず、不可能・非実際的事情が存在することの立証は、出願人に求めています。不可能・非実際的事情が存在する場合には、クレームの記載は、明確性要件に適合します。特許庁は、明確性要件違反の拒絶理由を通知するにあたり、一種の行政サービスとして
「出願人の特許出願や研究開発に対する意欲を削ぐことがないよう、拒絶理由通知には、出願人が拒絶理由を解消するために反論以外に、補正、事情の主張・立証等の対応をとることができることを記載します。」
とされています。具体的な例としては、製造方法の発明への補正が挙げられています。

 驚かされた点は、最後の拒絶理由通知の応答でも、物の発明から製造方法の発明への補正も、カテゴリー変更であるにもかかわらず、明瞭でない記載の釈明(17条の2第5項4号)に名を借りて、許容している点です。このタイプの補正は、17条の2第5項2号の減縮ではないため、出願人は、分割−補正という面倒な手続きを経なければならないところだったのですが、この負担は軽減されます。
 
 もっとも、訂正でも明瞭でない記載の釈明(126条1項3号)によってカテゴリー変更ができるのかという問題は、残されたままです。あるいは、「クレーム記載の製造方法で製造された物に限る」という減縮を認めるという方向に進むのかもしれません。
 
 構造物の仮想事例として、

×
「凹部を備えた孔に凸部を備えたボルトを前記凹部と前記凸部とが係合するように挿入し、前記ボルトの端部にナットを螺合してなる固定部を有する機器。」


「凹部を備えた孔に凸部を備えたボルトが前記凹部と前記凸部とが係合した状態で挿通されており、前記ボルトの端部にナットを螺合してなる固定部を有する機器。」
(経時的な要素の記載がなくなり、「類型 (2):単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」に該当。)

 との例も挙がっています。

 しかし、この事例は、大変判りにくいように思います。能動態は製造方法を表し,受動態は状態を表すという説明は、形式主義的に過ぎるのではないかと思います。
 もっとも、特許庁としても、PBPではないことを示すメルクマールか標識が必要です。上記の運用も、本意ではないものの、最高裁判決を受けて画一的な運用を行うためには、止むを得ないのかもしれません。