明示的一部請求で債権の総額が認定された場合の残部の消滅時効

最判平成25年6月6日民集67巻5号1208頁の担当調査官による時の判例が、ジュリスト6月号に掲載されています。調査官は、「明示的一部請求の訴えの提起が残物につき時効中断効を生ずるか否かという『古典的な論点』について」「最高裁が裁判上の催告説にたつことなどを初めて明らかにしたもの」と評価されています。

 この事案の事実関係からすると、当事者及び代理人が残部について新たな訴えを提起したこと、第一審がその請求を認めたこと(裁判上の催告ではなく、確定的な時効中断が生じたと判断したこと)も、理解できます。
 事実関係を簡略化すると、以下のとおりです。

・Xの主張する債権総額:3億9761万
・時効完成期限;H17.6.24
・H17. 4.16  X,Yに対し、内容証明送付
・H17.10.14 (民153条の6月以内) X、Yに対し、5293万円の支払いを求めて訴えを提起(「別訴」)
Y,債権の一部について相殺によって消滅したとの抗弁を主張
・別訴の判決では、現存する債権の額は7258万円であると認定し、Xの請求を全部認容(確定)
・X、残部について訴えの提起(本訴訟)

 別訴により、債権総額が認定されているのですから、事実上、この紛争の全体について決着がついたともいえます。しかし、厳格にいえば、債権総額が認定されても、その認定は、理由中の判断にすぎないともいえます。
調査官の解説では、「残部のうち消滅していないと判断された部分は、訴訟物になっていないのはもちろん、一部消滅の抗弁を排斥する役割も結局果たさなかった」、「訴訟物としての判断がされたのと同視することはできないという考え方によったもの」とコメントされています。