のみ品の譲渡(専用品型の間接侵害)と最終製品の消尽及び黙示の許諾

 FRAND宣言の控訴審判決(知財高判平成26年5月16日(平成25年(ネ)第10043号))では、傍論ではありますが(p.114の「念のため」以降)、特許権者又は実施権者が特許法101条1号に該当する製品(いわゆる「のみ」品又は専用品)(「1号製品」)を譲渡した場合に、第三者が川下で当該1号製品を取得し、特許製品を生産して使用する行為について、特許権者が権利を行使できるか否かという論点も扱われています。
(*1号製品自体について権利行使が許されないことは、いうまでもありません。問題は、最終製品に対する権利行使です。)
 判決は、

・原則として、最終製品に対する権利行使は制限されない。

・ただし、特許権者が、当該1号製品を用いて特許製品の生産が行われることを黙示的に承諾していると認められる場合には、特許権の効力は、当該1号製品を用いた特許製品の生産や、生産された特許製品の使用、譲渡等には及ばない。

・実施権者(特許権者から許諾を受けた者)が1号製品を譲渡する場合には、実施権者が川下での行為について承諾する権限まで付与されているか否かも検討すべきである。

と述べています。

 この事案では、1号製品がベースバンドチップ、最終製品が、「データ送信装置」(例えば、スマートフォン)です。最終製品を製造するためには、ベースバンドチップ以外の多様な部品も必要であり、ベースバンドチップの価格と最終製品の価格との間には、数十倍の差があります。しかも、1号製品の製造販売者と被告との間の契約では、ライセンス対象製品は、問題となった最終製品が含まれていません。
 判決は、これらの事情を「総合考慮」して、黙示の承諾を否定しました。

 専用品が特許発明の価値の全てを体現しているわけではないという場合には(そのような場合の方が、多いだろうと思います。)、権利者が専用品を製造販売したからといって、安易に消尽や黙示の許諾を認めるべきではありません。しかし、特許発明の価値の全てが専用品に現れているという場合には、権利者の最終製品に対する権利行使を認めると、二重の対価回収の機会を許容することになってしまいます。そのような場合には、「黙示の承諾」の枠組みで処理するのかもしれませんが、権利者は、今後、契約書において、明示的な文言として承諾を否定するはずです。権利者の明示の意思に反して「黙示の承諾」を認めるのであれば、そのような「黙示の承諾」は、消尽と何ら変わりがありません。

 もっとも、このような面倒なトラブルを引き起こさないためには、権利者も、権利の取得の際に、専用品のクレームも立てておくべきでしょう。