外国法人の関与する侵害行為に対する訴えの提起


[外国法人]
 外国法人Y1が被疑侵害品を製造して日本の販売店Y2に輸出し、Y2が国内の顧客に対し当該被疑侵害品を販売しているという場合、特許権者Xは、当然、販売店Y2に対して訴えを提起することができます。しかし、販売店Y2が十分な資産を有していないこともあります。さらに、Y1が、別のルートで日本に被疑侵害品を輸出するおそれもあります。そこで、Xとしては、外国法人Y1に対しても訴えを提起したいところです。
 もっとも、XがY1に対して訴えを提起するには、(i)国際裁判管轄があるのか、(ii)(i)が肯定されるとしても、送達などの手続きに時間がかかりすぎるおそれがある、という問題があります。
 (i)は、現在では、民訴法3条の3第8号の問題です。

不法行為に関する訴え 不法行為があった地が日本国内にあるとき(外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときを除く。)。」

 従前より、不法行為地に関し、その原因となった行為の行われた地だけでなく、結果発生地をも含まれるという解釈が一般的でした。上記規定は、この通説に基づいています。もっとも、結果発生地には、派生的に営業上等の損害が生じた地までは含まれないと考えられています(派生的な損害まで全て含めると、被害者の本社所在地では必ず損害が生じることになってしまいます。)。その結果、結果発生地について厳格な解釈を採ると、外国法人の裁判管轄を肯定するためには、日本での何らかの行為が必要とされます。しかし、Y1が、外国から、日本の顧客に対し、インターネットを介して販売の申出を発信し、日本の顧客が、日本でその申し出を受領するという場合に、日本国内での受領という結果まで含めて不法行為地を認定すると、日本の裁判管轄を認めることができます(知財高判平成22年9月15日判タ1340号265頁参照;受領まで考慮するまでもなく、日本に向けた申し出のみで裁判管轄を認めるべきという有力説もあります(例えば、木棚先生))。
 
 もっとも、外国法人Y1に裁判管轄が認められたとしても、日本国内のような送達はできません(民訴108条)。そのため、日本の販売店Y2に対する訴えの提起も、重要であることには変わりありません。

[販売店
 販売店Y2が、実際にY1の被疑侵害品を取り扱っているのであれば、XがY2に対し訴えを提起することに何の問題もありません。
 その一方、販売店Y2が、外国法人Y1の製品全般を取り扱うことができるとしても、問題となっている個別の被疑侵害品を扱っていることを示す証拠がない場合、

・Y2がY1の事業に対しどの程度の関与があれば、XはY2を被告にできるのか(訴えの提起が不法行為に該当せずに済むのか)、
・Y2が実際には被疑侵害品を扱っていないにもかかわらず、XがあたかもY2が侵害行為を行っているかのようなプレスリリースを行った場合に、当該行為は、不競法2条1項14号の不正競争に該当するのか

という問題が生じます。
 外国法人Y1の国際裁判管轄の問題を考慮すると、販売店Y2を相手にすることは合理的な対策です。Y2が、Y1の製品全般を扱い得るのであれば、Xとしては、Y2に対して権利行使をしたいと考えることは当然です。Y2が、顧客の注文を受けると、Y1の被疑侵害品を販売する用意があるのであれば、少なくとも侵害のおそれはありそうです。その一方で、Y2が権利を侵害しているかのように決め打ちしたプレスリリースに至ると、行き過ぎであるように思います。
 大阪地判平成26年2月19日(平成26年(ワ)第3119号)では、このような事案が扱われました。裁判所は、不法行為は否定したものの、不正競争に該当することは認めています。