間接事実によるプログラムの著作権の複製又は翻案の立証

 証拠が相手方当事者に偏在しているために、権利者にとって被疑侵害態様の立証が困難な場合があります。典型的な例は、製造方法の発明です。この問題については、最近の知財紛争処理タスクフォース報告書でも、証拠の収集手段について言及があります。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2015/dai13/siryou2.pdf
そのほかにも、プログラムの著作権の複製又は翻案についても、相手方のソースコードが入手できない場合には、プログラムの動作などの間接事実から立証せざるを得ないという制約が加わります。

 東京地判平成27年6月25日(平成25年(ワ)第18110号)でも、被告プログラムが原告プログラムの複製又は翻案であるか否かが争点の一つでした。原告は、証拠保全手続きによっても、被告プログラムのソースコード自体を入手することはできませんでした。原告は、以下の間接事実を主張し、その間接事実に基づいて複製又は翻案を主張しました。
・Template.mdbという定義ファイルが被告プログラムでも使用されている。
・原告プログラムのバグによる動作上の不具合が被告プログラムにもある。
・過去に原告の従業員であった者(複数)が、被告に勤務している。その中には、原告プログラムの元開発責任者も含まれる。
・被告プログラムの価格が原告プログラムと比較して大幅に安い。
・証拠保全手続きにおいて、被告が(原告によると)虚偽の説明をした。
・証拠保全手続きで撮影したビデオカメラデータによると、原告プログラムと同じコメントが被告プログラムにも含まれていた

 裁判所は、一部の事実について一定の推認力を認めたものの、推認を妨げる間接事実の存在も指摘し、結果として、複製又は翻案を否定しました。直接証拠なしには、難しい事案であるように思います。

なお、裁判官は、証拠保全手続きの際のビデオカメラデータを削除するよう指示していたにもかかわらず、原告は、後になってデータを復旧したようです。この点について、裁判所は、「かかる主張立証方法は、証拠保全手続における裁判官の指示をないがしろにするものであり到底認めることはできない」と判断しています。
民事訴訟では、違法収集証拠の証拠能力が否定されることは稀ですが、著しく反社会的な手段や人格権侵害を伴う方法で得られた証拠については証拠能力を否定した裁判例があります。この件も、それに類する判断です。