商標的使用の主張立証責任の分配(商標法26条1項6号)

 商標法では、商標の使用行為は、2条3項に規定されています。この規定では、例えば、商品又は商品の包装に標章を付する行為は、どのような態様であろうと、使用に当たります。そして、商標権の効力は、この使用の概念で画されています(25条及び37条)
 しかし、この「使用」の定義を形式的に貫徹すると、不合理な結論になる場合があります(例えば、巨峰事件やテレビまんが事件)。商品の使用説明中に、偶々、当該商品を指定商品とする他人の登録商標が使われていたからといって、その商標が出所表示機能を発揮しているわけではありません。
 そこで、商標権侵害を否定するため、商標的使用という概念が広く用いられてきました。つまり、出所表示機能や自他商品等識別機能を発揮していない態様は、形式的には2条3項の「使用」に該当しても、商標的な使用ではないことを理由に、商標権侵害が否定されてきました。
 最近の法改正により、26条1項6号として、商標的使用が明文化されました。
「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」
 知財高判平成27年7月16日(平成26年(ネ)第10098号)では、26条1項6号該当性が争点の1つとなっています。

 問題は、商標的使用ではないことが抗弁なのか(被告が、商標的使用でないことを主張立証すべきなのか)、商標的使用であることが請求原因なのか(原告が、商標的使用であることを主張立証すべきなのか)、という点です。
 26条1項6号は、その立てつけから、商標的使用ではないことが抗弁と位置付けています。もっとも、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により「使用されてい『ない』」という「ない」ことの立証責任を負わせて良いのか、という問題提起もなされていたところです。

 もっとも、商標的使用であるか否かは、規範的要件です。
 したがって、被告が、商標的使用ではないこと基礎づける事実(評価根拠事実)の主張立証責任を負い、原告が、商標的使用である(*二重否定の結果、商標的使用で「ある」ことになります。)ことを基礎づける事実(評価障害事実)の主張立証責任を負い、裁判所が、両者を総合評価して結論を下すことになります。
 したがって、商標的使用でないことが立証命題か、商標的使用であることが立証命題か、という議論は、あまり実益がないように思います。