プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(2)

知財高裁大合議が、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の解釈と、104条の3の抗弁における要旨認定に関する判決を出しました。
原審についてはこちら
http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20110505/1304608700


未だ要旨しか公開されていませんが、本来的な意味でのプロダクト・バイ・プロセス・クレーム(物の構造又は特性により特定することが不可能又は困難である事情がある場合に製造方法で物を特定するクレーム)と、それ以外のプロダクト・バイ・プロセス・クレームとを区別し、前者を「真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」、後者を「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」と呼んでいます。

技術的範囲の解釈については、原則として、物の発明のクレームが製造方法の発明特定事項を有している場合には、技術的範囲は、その製造方法により製造された物に限定され、上記の事情がある場合には、製造方法に限定されず、物全般に及ぶと判断しています。
発明の要旨認定についても、同様の基準を適用しています。

構成要件充足性の議論では、この基準が適切であるように思います。クレームの文言から、製造方法の発明特定事項が存在することは明らかです。そして、一般に、特許権者は、クレームを広く解釈し、技術的範囲は製造方法に限定されず物全般に及ぶと主張します。そこで、まずクレーム文言に基づいて、原則として技術的範囲は製造方法に限定されると解釈し、技術的範囲を広く解釈するのであれば、その恩恵を受ける特許権者に立証を尽くさせることが合理的です。

 その一方、審査の場面では、上記基準では、困った事態が起きるかもしれません。審査の段階では、クレームに製造方法の限定があると(暗黙のうちに)狭く解釈され、先行文献のサーチ範囲が限定され、出願が特許された後になって、特許権者が権利行使の場面ではクレームを広く解釈するということも起きかねません。
 
 これまでは、審査官が、物同一説にしたがって(つまり、製造方法の限定がないという解釈の下で)拒絶理由を打ち、出願人が、製造方法の特定によって先行技術との差異があると主張することによって、クレームが「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」であることが包袋から明らかになることもありました。
 今後、審査官は、拒絶理由を出す際、要旨認定において製造方法の特定事項をどのように解したのかを明示し、特許権者にも、製造方法の限定があるという解釈に異議がある場合には、要旨認定に反論することを求める必要があるかもしれません。

 大合議判決の基準では、プロダクト・バイ・プロセス・クレームについては、技術的範囲と104条の3の抗弁(いわゆる無効の抗弁)での要旨認定とが合致します。
 もっとも、技術的範囲の確定については特許法70条を引用し、発明の要旨認定については「特許無効審判請求手続において特許庁(審判体)が把握すべき請求項の具体的内容と同様に認定されるべきである」と述べており、両者を区別しています。したがって、両者が(少なくとも理屈の上では)区別されるという建前は、維持しているように思います。