インターネットモールの出店者による商標権侵害と運営者の責任

 インターネットショッピングモールの出店者が商標権を侵害した場合に、そのショッピングモールの運営者が責任を負うか否かが争われた事案について、控訴審判決が出ています(知財高判平成24年2月14日(平成22年(ネ)第10076号)(原審 東京地判平成22年8月31日(平成21年(ワ)第33872号))。

 原審は、運営者は譲渡等の主体ではないと判断し、原告(商標権者)の請求を棄却しました。控訴審でも、控訴は棄却されていますが、後述の一般的な規範を述べ、運営者も責任を負う場合があることを認めています。その規範の内容は、概略、
(i)カラオケ法理(管理・支配及び利益の帰属)、
(ii) プロバイダ責任制限法3条1項と同等の認識(出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったとき)及び
(iii) 結果回避措置(つまり、侵害コンテンツの削除)を採ることなく合理的な期間が経過したことです。この判決では、差止請求と損害賠償請求とで要件が合致しています。

 この規範で導かれる結論は、概ね妥当であろうと思います。
 しかし、この規範と商標法及び不法行為法との整合性には、疑問があります。

 まず、不法行為の過失(結果回避義務)との関係では、利益の帰属は独立の要件とはいえません。結果回避義務の前提として、結果回避措置を採る能力があることが必要であり、そのためには、支配・管理が必要です。しかし、利益の帰属は、必須とはいえません。
 事前の全件審査義務を課さなかったという点で、(ii)は妥当であろうと思います。もっとも、類比について評価が分かれる事案についても、事後的な判断で「知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至った」と評価されてしまうと、運営者は、権利者と出店者との間で板挟みとなるおそれがあるでしょう。

 差止請求の対象に関し、
・直接行為者(物理的に直接侵害行為を行った者だけでなく、規範的に直接行為者と評価される者を含む。)に限定される
という主流派と、
・一定の間接行為者にも及ぶ
という少数派があります。
 前者は、差止請求の対象を直接行為者とリンクさせたまま、直接行為者の概念を拡張するというアプローチです。後者は、差止請求の対象と直接行為・間接行為の区別とを切り離し、端的に差止請求の範囲を広げるというアプローチです。
 
 控訴審判決は、従前の管理支配+利益の帰属を述べ、しかも「社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能というべき」と述べていることから、前者の主流派アプローチを採ったのでしょう。

 しかし、商標権侵害には、故意過失の要件は不要です。それにもかかわらず、控訴審の規範では、(ii)の商標権侵害の認識という過失的な要件が入ってしまいます。さらに、理由づけの(3)で、運営者の刑事上の責任は幇助犯であることを認めつつ、民事的には行為主体であるというのは、罪刑法定主義の縛りがあるとはいえ、場当たり的との印象がぬぐえません。
 控訴審判決は、合理的な期間経過後の不作為を侵害行為と擬制するという趣旨であったのでしょう。特許法の多機能的間接侵害では、侵害の擬制にあたり、行為者の主観的要件(「その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら」)が加わっています。それと同様の趣旨であったのだろうと推測します。
 しかし、行為を侵害と擬制するという場面ではなく、行為主体の議論の場面で、商標権侵害の認識という過失的な要件を持ち出しているため、規範が分かりにくくなっているように思います。

 不法行為と差止請求とを行為主体という同じ枠組みで処理する必然性はないと考えています。



 「本件における被告サイトのように,ウェブサイトにおいて複数の出店者が各々のウェブページ(出店ページ)を開設してその出店ページ上の店舗(仮想店舗)で商品を展示し,これを閲覧した購入者が所定の手続を経て出店者から商品を購入することができる場合において,上記ウェブページに展示された商品が第三者の商標権を侵害しているときは,商標権者は,直接に上記展示を行っている出店者に対し,商標権侵害を理由に,ウェブページからの削除等の差止請求と損害賠償請求をすることができることは明らかであるが,そのほかに,ウェブページの運営者が,単に出店者によるウェブページの開設のための環境等を整備するにとどまらず,運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い,出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって,その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは,その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り,上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し,商標権侵害を理由に,出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。けだし,(1)本件における被告サイト(楽天市場)のように,ウェブページを利用して多くの出店者からインターネットショッピングをすることができる販売方法は,販売者・購入者の双方にとって便利であり,社会的にも有益な方法である上,ウェブページに表示される商品の多くは,第三者の商標権を侵害するものではないから,本件のような商品の販売方法は,基本的には商標権侵害を惹起する危険は少ないものであること,(2)仮に出店者によるウェブページ上の出品が既存の商標権の内容と抵触する可能性があるものであったとしても,出店者が先使用権者であったり,商標権者から使用許諾を受けていたり,並行輸入品であったりすること等もあり得ることから,上記出品がなされたからといって,ウェブページの運営者が直ちに商標権侵害の蓋然性が高いと認識すべきとはいえないこと,(3)しかし,商標権を侵害する行為は商標法違反として刑罰法規にも触れる犯罪行為であり,ウェブページの運営者であっても,出店者による出品が第三者の商標権を侵害するものであることを具体的に認識,認容するに至ったときは,同法違反の幇助犯となる可能性があること,(4)ウェブページの運営者は,出店者との間で出店契約を締結していて,上記ウェブページの運営により,出店料やシステム利用料という営業上の利益を得ているものであること,(5)さらにウェブページの運営者は,商標権侵害行為の存在を認識できたときは,出店者との契約により,コンテンツの削除,出店停止等の結果回避措置を執ることができること等の事情があり,これらを併せ考えれば,ウェブページの運営者は,商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは,出店者に対しその意見を聴くなどして,その侵害の有無を速やかに調査すべきであり,これを履行している限りは,商標権侵害を理由として差止めや損害賠償の責任を負うことはないが,これを怠ったときは,出店者と同様,これらの責任を負うものと解されるからである。」

「もっとも商標法は,その第37条で侵害とみなす行為を法定しているが,商標権は「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する」権利であり(同法25条),商標権者は「自己の商標権・・・を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができる」(同法36条1項)のであるから,侵害者が商標法2条3項に規定する「使用」をしている場合に限らず,社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能というべきであり,商標法が,間接侵害に関する上記明文規定(同法37条)を置いているからといって,商標権侵害となるのは上記明文規定に該当する場合に限られるとまで解する必要はないというべきである。」(p.99-101)