特許

FRAND宣言と損害賠償請求権及び差止請求権

要旨を読む限り、・当該事案でのFRAND宣言そのものは、契約の申込みには当たらないため、第三者の承諾もあり得ず、ライセンス契約は成立しない(注:準拠法とFRAND宣言の文言によっては、違う結論もあり得ると解されます。)・FRAND条件でのライセンス料相当…

アメリカでの2種類のクレーム解釈(特許付与の段階でのクレーム解釈と侵害裁判所でのクレーム解釈)

アメリカでは、伝統的に、特許庁でのクレーム解釈と裁判所でのクレーム解釈とは異なっています。特許庁では、”Reasonably Broadest Interpretation ”(RBI)の基準が採用され、裁判所では、侵害論でも無効論でも、明細書を考慮したクレーム解釈が採用されて…

引用発明の認定と技術常識

引用文献に、 αの機能を有する化合物とβの機能を有する化合物とを含有する組成物 との上位概念が記載されており、αの具体例としてA1ないしAnが列挙され、βの具体例としてB1ないしBnが列挙されていたとします。 そしてAiは、αのほかに、γの機能も有していたと…

技術分野の「非」関連性

進歩性は、総合判断型の規範的要件です。考慮要素は様々なものがありますが、類型化されたものとしては、技術分野の関連性、課題の共通性、機能及び作用の共通性などが挙げられます。 約7−8年前までは、特許を無効にし又は出願を拒絶する際、技術分野の関…

明確性要件違反による無効理由

明確性要件違反によって特許が無効とされる例は、少数に限られています(例として、知財高判平成21年3月18日;「平均粒子径」の定義が明確になされていなかった事例)。もっとも、特許権者が、クレームの記載が明確性要件に適合するよう釈明すると、被…

特許査定の取消訴訟

「特許査定を取り消す」という珍しい主文の判決が、東京地裁で出ています(東京地判平成26年3月7日(平成24年(行ウ)第591号))。この件は、通常の行政訴訟(抗告訴訟としての取消訴訟)ですので、知財高裁ではなく、東京地裁に第1審の管轄があ…

再生医療等製品の延長登録

産業構造審議会特許制度小委員会の「特許権の存続期間の延長制度検討WG」では、「再生医療等製品」による延長に関し、今月から、議論が始まっています。 この議論は、昨年の薬事法改正により、「再生医療等製品」というカテゴリーが新設され(2条9項;改…

FRAND宣言をした特許権者は、最終的に誠実に交渉すれば、過去に遡ってライセンス料を得られるのか

FRAND宣言に伴う権利者と第三者(潜在的なライセンシー)との間の関係については、・法的な権利義務関係が既に成立している (例えば、差止請求権に関する権利放棄、(標準化団体の規約にも依存しますが)第三者のためにする契約(注:この法律構成の場合、…

新薬開発、日本に回帰?

今朝の朝刊の一面に、「新薬開発、日本に回帰」と題する記事が出ています。もっとも、その記事の内容は、タイトルとはやや異なる印象を受けます。 かつては、海外のメガファーマは、日本に研究所を設置し、研究者を雇用して、自らR&Dに取り組んでいました。…

FRAND宣言の下での差止請求及び損害賠償請求に関する意見募集手続き

一連のスマホ訴訟(アップルvサムスン)のうち、サムスンがFRAND宣言をした権利を行使した件 http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20130421/1366550722 の控訴審において、裁判所の主導により、一般から意見を募集することが決まりました。FRAND宣言のされた…

審決取消訴訟の審理範囲

[メリヤス編機事件] 行政処分の訴訟物は、処分の違法性一般であり、個々の違法事由に限定されるわけではありません。 しかし、特許法の審決取消訴訟では、メリヤス編機事件の最高裁大法廷判決(最大判昭和51年3月10日民集30巻2号79頁)により、…

職権での無効理由通知、解決課題の認定

換気扇フィルター事件の第2次審決取消訴訟が判時2197号119頁に掲載されています。 この事件は、無効審判の2回目の審決取消訴訟です。第1次審決では、特許庁は特許を進歩性欠如により無効としましたが、その審決取消訴訟(第1次審決取消訴訟)では…

進歩性の判断枠組みにおいて、効果は、要件事実としてどのように位置づけられるか

進歩性の判断枠組みでの相違点の判断のステップは、要件事実的には、総合判断型の規範的要件と解されています(総合判断型の規範的要件の例として、借地借家法28条の正当事由)。総合判断型の規範的要件では、各種の要素が総合評価されます(借地借家法2…

TPPとデータ保護期間(再審査期間)

先週の金曜日の朝刊に、TPPの交渉について、交渉参加国が「新薬の開発データの権利を保護する機関を「8年」で調整している」との報道がありました。 日本の場合、薬事法14条の4の再審査期間が、実質的なデータ保護期間として機能しています。再審査期間…

引用発明の適格性

本願発明の進歩性を判断する際、まず、引用発明を決め、その引用発明から本願発明に至ることが容易であったか否か(つまり、本願発明と当該引用発明との相違点を解消することが容易であったか否か)を検討します。この引用発明は、主引用発明とよばれます。 …

サポート要件適合性の規範(「当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」と「必要かつ合目的的な解釈手法」)

[2つの規範] サポート要件適合性の規範としては、多くの場合、偏光フィルム事件の「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明…

ITCの排除命令に対する拒否権発動

ITC(国際貿易委員会)が、サムスンの申立てを受け、Appleに対して下した排除命令について、大統領が拒否権を発動したというニュースが報道されています。 最近、ITCの申立ては増加傾向にあります。 その背景に、連邦最高裁のeBay事件判決により、特許法に基…

職務発明の帰属

「知的財産政策に関する基本方針」(平成25年6月7日付け閣議決定)には、「1 産業競争力強化のためのグローバル知財システムの構築」の中に、職務発明の帰属及び営業秘密保護法制に関し、以下の記載があります。「1 産業競争力強化のためのグローバル…

損害賠償請求に対するFRAND宣言による権利濫用の抗弁

東京地判平成25年2月28日(平成23年(ワ)第38969号)は、一連のスマホ訴訟の一つであり、アップル(X)が、サムスン(Y)に対し、損害賠償債務の不存在の確認を求めた事件です。裁判所は、Yが、問題の特許は標準規格の必須特許であることを理由…

特許を受ける権利を原始的に会社に帰属させると何が解決するのか

日経の報道によると、政府の「知財政策ビジョン」では、従業員のなした職務発明の特許を受ける権利について、従業員ではなく、初めから会社に帰属させるという提案がなされるようです。著作権法では、既に、一定の要件の下、職務著作は被用者に帰属しますが…

特許法102条2項及び著作権法114条2項における損害の発生の要件

知財高判平成25年2月1日の大合議判決は、従前の一般的な説(特許法102条2項では、権利者の実施が要件であるとの説)を覆し、「特許権者が当該特許発明を実施していることは、同項を適用するための要件とはいえない」と判示しました。 具体的な内容は…

付与後レビュー制度

産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会の平成25年2月付け報告書案「強く安定した権利の早期設定及びユーザーの利便性向上に向けて」によると、各種案の中から付与後レビュー制度を導入することが適切とされました。 この「付与後レビュー制度」…

FRAND条項による権利濫用

報道によると、アップルとサムスンのスマホ訴訟(サムスンが原告のもの)において、地裁は、サムスンがFRAND条項にもかかわらずアップルと誠実に交渉しなかったことを理由として、請求を棄却したそうです。 FRANDとは、Fair, Reasonable And Non-Discriminat…

特許法102条2項と権利者による実施の必要性

本年2月1日の知財高裁大合議判決は、特許法102条2項に関し、「特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきであり、特許権者と侵害…

動機づけと課題の多様性

公知発明A+Bに関し、Aの代替品としてA’が登場したと仮定します。当業者であれば、Aに代えてA’を採用し、A’+Bとすることは、容易であるはずです。 A’がAの代替品として登場する際に、A’とAとは共通の性質を有するものの(共通点があるから代替…

新規事項の追加か、進歩性における技術的意義か

明細書に、上位概念としてAの記載があり、その下位概念としてa1 − anが列挙されていたという場合を想定します。実施例にも、多数の下位概念が用いられており、その中にaiも記載されています。 設定登録時のクレームはAを規定したところ、無効審判で、引例…

「新規性のある構成を見出すこと」という課題

[「新規性のある構成を見出すこと」という課題の下でのサポート要件及び進歩性] サポート要件の規範には、一般に、偏光フィルム事件大合議判決の規範が用いられています。 (「特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求…

付与後レビューという名の付与後異議の復活

産構審知財政策部会特許制度小委員会は、本年の8月より、付与後の特許の見直し制度の議論を始めましたが、もうパブリックコメントの募集にこぎ着けました。(当初の議論について、http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20121019/1350656567) 「強く安定した権…

サポート要件と実施可能要件との違い、明細書記載の課題はすべて解決されなければならないのか、記載要件と進歩性との両立

以前書いたとおり、http://d.hatena.ne.jp/oneflewover/20100930/1285858294サポート要件と実施可能要件とは、その守備範囲が相当に重複するものの、一致するわけではありません。知財高判平成24年10月29日(平成24年(行ケ)第10076号)は、そ…

薬理データの欠如はサポート要件違反か、実施可能要件違反か

平成15年にサポート要件の審査基準が改訂されて以降、特許庁は、医薬品の用途発明の出願で薬理データが欠けている場合には、サポート要件違反と判断してきました。「薬理データが無い場合には、目的とする疾患の治療が実現するか否か解らない、つまり、課…